#20 コンギツネの里帰り

ある週末、

僕は、コンギツネと、"茨城県笠間市"にやって来ていた。

レンタカーを借り、東京から2時間程をかけ、高速道路をひたすら北上して来たのだ。


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茨城県のちょうど中央辺りに位置する笠間市は、東京と比べるとかなりの田舎といった感じの所だった。


車で道路を走っていても、周りに見えるのは山や畑ばかり。高いビルなどは皆無だ。

自然いっぱいの土地である。


「あ、見てください。ほら、あそこ。

タヌキさんがいますよ。」


コンギツネは、そう言って車の窓を開け、指を差した。

僕は、コンギツネが指差した方を見てみると、本当にタヌキがトコトコ歩いていた。

すごい。こんな道路の近くまで野生のタヌキがやってくるんだ。

僕は、初めて野生のタヌキを見たことに、ちょっと感動していた。


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そもそも僕は、この笠間市に来るのは、今日が生まれて初めてだった。

というか、今まで"笠間"という場所があることすら知らなかった。


なのに、なぜ、僕らがこの笠間市にやって来たのかというと、

話は2日前にさかのぼる。




その日、

僕は、仕事から帰ったあと、家でゆっくりくつろいでいた。

コンギツネはお風呂に入っていた。

すると、


〜♪


と、僕のスマホの着信音が鳴った。

電話だ。

誰からだろうと思い、スマホの画面を見ると、知らない番号が表示されていた。

僕は、


ピッ


と、とりあえず電話に出た。


「はい、もしもし。」


すると、電話の相手は、


「あ、もしもし。

すみません、夜分遅くに申し訳ありませんが、

そちらにコンギツネはいますでしょうか?」


と言ってきた。


‥‥‥‥

‥ん!?


な、なんだって!?

なんで、こいつはコンギツネのことを知っているんだ!?


僕は焦りながらも、


「‥え‥?あ、あの‥コンギツネって‥、

す、すみません、そちら、どちら様でしょうか‥?」


と聞いた。

一体、何者なんだ?

すると電話の主は、


「あ、すみません、申し遅れました。私、

コンギツネの

"母"でございます。」


と、言ったのだった。


‥‥‥

え?

‥何ですと!?‥"母"!?


僕は、驚愕した。

マジか!?


と、ちょうどその時、


「ふうー、サッパリしましたー。」


と、言いながらコンギツネがお風呂から上がってきた。

良かった。ちょうどいい所に出てきた。

僕はコンギツネに、


「あ、ねえちょっと、

今、なんか、君のお母さんて言う人から、電話がかかってきてんだけど‥。」


と言った。

すると、コンギツネはギョッとした顔をして、


「‥え!?

‥マ、マジですか‥‥。」


と言った。


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コンギツネは、


「‥ちょ、ちょっと、かわってもらっていいですか?」


と言い、僕から電話を受け取った。

そして、


「‥え‥と‥、あ、あの、

もしもし‥。」


と、恐る恐るといった感じで電話に出た。

すると、電話の向こうから、


「あ、もしもし、あんたコンギツネなの?

ちょっと、あんた、今何やってんのよ!?」


と、聞こえてきた。

スピーカーホンでもないのに、僕にもよく聞こえてくる大きい声だった。

コンギツネは、


「え‥?‥ちょっと、お母さん‥?

どうしたのよ、急に、

電話なんかかけてきて‥?」


と、気まずそうに言った。

どうやら、本当にコンギツネの母親みたいだ。

電話の向こうのコンギツネの母は、


「どうしたのじゃないわよ!

あんた、久しぶりに封印から解かれたそうじゃない!

なのに、一度もうちに帰ってこないで!

まったく、一体、何やってんのよ!?

ちゃんと、ご飯とか食べてんの!?」


と、強い口調でそう言ってきた。

実家の母親が、娘のことを心配している感じだ。

コンギツネは、


「だ、大丈夫よ、別に心配しなくても!

私は私で、ちゃんとやってるんだから!」


と、しどろもどろで答えた。

母親は、


「何言ってんのよ、まったく、

この不良娘が!

とにかく、一度うちに帰ってきなさい!

お父さんも会いたがってるわよ!」


と言ったあと、


ガチャッ


と、電話を切ったのだった。


ツー、ツー。


‥‥‥‥‥

なんだか、気まずい時間がながれた。


「‥あ、‥えっと‥、

君‥、ご両親とかいたんだね。」


僕は、とりあえずコンギツネにそう聞いてみた。

コンギツネは、


「‥あ、は、はい‥、

そうです。

私とフォックスの両親です。」


と、答えた。

親との会話を聞かれたからか、少し恥ずかしそうな顔をしている。

僕は、


「‥そっか、まあ、でも、そうだよね。

そりゃ君にも、両親くらいいるよね。

‥‥ところで、なんか、会いに来いみたいなこと言われてたけど‥。」


と、さらに聞いてみた。

すると、コンギツネは、


「‥あー、‥えっと、そうですね‥、

まあ、なんていうか、私が封印されて以来、ずっと会ってなかったんで‥、

なんか少し心配してるみたいでしたね‥。」


と答えた。

封印されて以来‥ということは、もう1000年くらい会っていないということか。

そりゃ、心配するわ。


僕は、


「ホントかい。そしたら、早く会いに行ってあげた方がいいんじゃないの?」


と言った。

誰であれ、親を心配させることは良くないと思った。

それに対しコンギツネは、


「そ、そうですね‥。

まあ、あんまり心配かけるのも良くないし、

一度、帰ってみようかな‥。」


とつぶやいた。

それから、僕の方を見て、


「‥あの、そしたら、タチバナさん、

お願いなんですけど、

タチバナさんもいっしょに来てくれませんか?」


と頼んできたのだった。


僕は、びっくりした。


「‥え!?なんで!?

やだよ、1人で行けばいいじゃん!」


なんかよく分からないけど、とにかくそんな、めんどくさそうなこと、御免だ、

と思った。


しかし、コンギツネは、


「お願いします!

実家に行くの久しぶりすぎて、1人だとなんか気まずいんです!

それに、1人で帰ったら、そのまま実家にいろとか言われちゃうかもしれないですし!」


と言って食い下がってきた。


‥別にそれは、僕がいっしょに行ったところで、変わらないんじゃ‥。


「‥ところで、君の実家ってどこなの?」


僕は、とりあえずそう聞いてみた。

コンギツネは、


「"笠間"です。

今でいうところの、茨城県笠間市です。」


と答えたのだった。




つづく