#21 コンギツネの里帰り②

「ここ笠間は、"笠間稲荷神社"という有名な神社もあって、私たちキツネにとっては、ゆかりの地なんですよ。」


と、コンギツネはそう言って説明した。

僕も、寺社仏閣に関して別に詳しいわけではないのだが、

日本の神道では、キツネが、"お稲荷様"という神様として崇拝されているということは知っていた。

そして、笠間稲荷神社は、日本三大稲荷のひとつと言われているほど、全国でもそこそこ有名な神社らしい。


僕らは、せっかく笠間に来たのだからと、コンギツネの実家に向かう前に、

笠間稲荷に軽く参拝をしに行った。

コンギツネは、神社の境内に置いてあるキツネの石像を見て、なんだか懐かしそうな顔をしていた。


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その後、僕らは、神社を後にし、

民家や田畑に囲まれた道を、コンギツネの案内で車を走らせた。

遠くには、高い山が見えた。あれは、筑波山らしい。


コンギツネは、車の窓から周囲をキョロキョロ眺めながら、


「この辺りも、ずいぶん昔と変わっちゃってますね。」


と言った。

昔っていうのは、1000年前のことを言っているのだろうから、それはそうだろう。


「でも、実家の場所は、私まだ覚えてますから大丈夫です!」


と、付け加えてきた。

帰巣本能みたいなものだろうか。


やがて僕らは、集落から外れたところにある、一軒の家に近づいた。

コンギツネは、その屋敷を車窓越しに指差しながら、


「あ、あそこですかね。」


と言った。

‥コンギツネが指差すその家を見て僕は驚いた。


「え?‥あの家?

‥うそぉ?」


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それは、ずいぶんと綺麗で立派な、そして近代的な邸宅だった。


僕は、正直、キツネの妖怪の実家と言うからには、

もっと、おどろおどろしい、化け物屋敷みたいなのを想像していた。

でなければ、山奥の薄暗い洞窟の中とかかと思っていた。

少なくとも、こんな綺麗な家だとは、思ってもみなかった。


「なんか‥、思ってたのと違った‥。」


と僕は言った。

コンギツネは、


「昔はもっと和風の家だったんですけどね。

建て替えたんですかね。」


と答えた。


それから、僕らは、家の近くに車を停めた。

そして、玄関の方に向かい、インターホンを押した。


ピンポーン


と音が鳴った。

めっちゃ普通の家やないか。


すると、間もなく、


「はーい、少しお待ち下さーい。」


という声が、戸の中から聞こえてきた。

僕は、いよいよコンギツネの両親が現れるのかと思うと、なんだかドキドキした。

そして、


ガチャッ


と、扉が開いた。

すると中から1人の女性が顔を出したのだった。


その人は、すらりとした美人だった。若そうにも見えるが、40代くらいにも見える、年齢不詳といった感じの人だ。

だが、頭の上を見てみると、

やはりというか、キツネの耳が付いていた。

そして、お尻には尻尾も。


この人が、コンギツネのお母さんなのだろうか‥?


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しかし、コンギツネは、少し緊張した面持ちで、


「あ、ミタさん。お久しぶりです。」


と言った。

‥‥‥

‥ん?‥ミタさん?


それに対し、その女性は、


「これはこれは、コンお嬢様。お帰りなさいませ。

お待ちしていました。

本当にお久しぶりでございます。」


と言ったのだった。


‥‥何?‥コンお嬢様‥?


僕は、コンギツネに小声で、


「‥ねえ、この人が君のお母さんじゃないの?」


と聞いた。

すると、コンギツネは、


「あ、いえ、違います。

彼女は、うちの家政婦の

"ミタギツネ"さんです。

私やフォックスが小さいときからお世話をしてくれていた人なのです。」


と言った‥。

‥家政婦!?

すごいな。家政婦なんか雇っているのか。


それから、そのミタギツネさんは、僕の方を見ると、


「おや‥?ところで、こちらの方は‥?」


と聞いてきた。

僕は慌てて、


「あ、えーと、

ど、どうも、初めまして。僕、タチバナといいます。」


と、とりあえず挨拶した。

キツネの妖怪とはいえ、突然、美人に見つめられドキッとした。

それから、コンギツネが、


タチバナさんは、私が東京でお世話になっている人なんです。」


と紹介してくれた。

それを聞いてミタさんは、


「あら、そうでしたか。

お嬢様と仲良くしてくださっている方なのですね。それはそれは、お礼を申し上げます。


と言って、深々と頭を下げてくれた。

僕は、


「あ、いえそんな、別にそんな大したことは‥。」


と、たじろぎながら言った。


それから、コンギツネは、


「あ、じゃあそしたら、ミタさん。

こんな玄関先で立ち話もなんだから、とりあえず中に入っていい?」


と言いながら、家の中に入ろうとした。

すると、次の瞬間、


バッ


と、ミタさんは手を伸ばして、

コンギツネが家の中に入るのを妨げた。

そして、


「お待ちください!」


と、強い口調で言ったのだった。

コンギツネは、びっくりした顔をして、


「え?ど、どうしたのよ、ミタさん?」


と聞いた。

それに対してミタさんは、


「申し訳ありませんが、お嬢様をこのまま、屋敷の中に入れる訳にはいきません!」


と、言い放った。

‥‥

‥え?‥どゆこと‥?


コンギツネは、


「え?な、なんでよ、ミタさん?」


と、驚き顔で聞いた。

するとミタさんは、


「失礼ながら‥‥、

私は、お嬢様が幼い時より、身の回りのお世話をさせていただいておりました。

僭越ではございますが、私がお嬢様を育てたと言っても過言ではないかと思っております。」


と、コンギツネを見ながら、やや穏やかな顔で言った。

コンギツネは、


「‥え?‥あ、ああ、そうね‥。

私も感謝してるけど‥。」


と、突然何を言い出すのだろうといった表情で答えた。

するとミタさんは、ここから急にガラッと厳しい顔つきに変わり、


「‥ところが‥、

そんなお嬢様は、

1000年前、人間たちに対し数々の悪さ、愚行を働き、

その報復として、あろうことか、カップ麺に封印されてしまうという醜態を晒してしまいました。

その結果、1000年以上も家に帰らず、ご両親に心配をかけるという、不良娘になり下がってしまったのです!」


と、丁寧な口調ではあるが、ひどく辛辣な言葉を浴びせてきたのだった。

家政婦からの唐突なディスりに、

コンギツネは、


「え‥、な‥、そんな‥。」


と、ショックで言葉を失ってしまっていた。

ミタさんは、さらに、


「それもこれも全て、お嬢様のお世話しておりましたこの私の、監督不行き届きということに他なりません。

なのに、このままお嬢様を、お父上とお母上に会わせてしまっては、私が、ご両親に顔向けが出来ないのです!」


と、矢継ぎ早に捲し立ててきた。

僕は、


「‥あ、あの‥、なにもそこまで言わなくても‥。」


と、どうにかフォローしようとした。

しかし、ミタさんは聞くことなく、


「なので、こうなってしまった責任は、この私自身が取らなければならないのです。」


と言った。そして、


バッ


と、コンギツネに向け、いきなり両手を突き出すと、


「はあああああああっっ!!」


と言いながら、"気"を溜め始めた。

ゴゴゴゴゴ、と空気が震える。

近くの木から、小鳥がパタパタと逃げ始めた。


コンギツネは、ギョッとして、


「‥え?‥ちょっと、ミタさん、何を‥!?」


と言いながら後退った。


それに対しミタさんは、真面目な表情で、


「私は‥、

お嬢様を不良にしてしまった責任を取るために‥‥、

‥‥この場でお嬢様を殺して、私も死にます!!」


と、恐ろしいことを高らかと言い放った。


そして、そのまま一気に"気"を高めると、

コンギツネに向け、

巨大な火の玉、"メラゾーマ"を放ってきたのだった。




つづく