#25 コンギツネとバレンタインデー②
ある日の仕事帰り、
僕はまた、行きつけのスターバックスに立ち寄った。
すると、店のレジには、その日も
サトウさんが勤務していた。
数日前のバレンタインデーに、僕にチョコレートをくれた女性店員さんだ。
「どうも、こんばんは。
こないだは、チョコレート、ありがとうございました。」
と、僕は、チョコをもらったことについてのお礼を言った。
「すごく美味しかったですよ。
すごいですね、あんな売り物みたいなチョコ作れるなんて!」
サトウさんがくれた手作りチョコは、
お世辞抜きで、高級チョコ店のチョコのような出来栄えの逸品だった。
「あ、いらっしゃいませ!
そうですか?良かった。
私、お菓子作りって結構好きなんです。」
と、サトウさんは、嬉しそうに笑顔で答えてくれた。
それから僕は、飲み物を注文し、受け取ると、レジを離れようとした。
すると、サトウさんが後ろから、
「あ、ちょっと待ってください!」
と声をかけてきた。
「はい?なんですか?」
僕が振り返ると、サトウさんは、
「すみません、これ、受け取ってもらえませんか‥?」
と言って、僕に一通の"封筒"を差し出してきた。
ピンク色の小さな封筒だった。
「‥え?‥何ですかこれ?」
僕は、なんだろうと思いながら受け取った。
手紙?
するとサトウさんは、
「‥えっと‥、お手紙っていうか‥、
‥お家に帰ってから、読んでもらえませんか‥?」
と、少し恥ずかしそうな顔をしながら言ったのだった。
‥僕は、びっくりした。
こないだのチョコレートに続き、女性からこんなものをもらうとは。
‥ひょっとして、僕に好意を持ってくれているのだろうか‥。
それから僕は、言われた通り、店の中で封筒を開くことはせず、急いで注文したコーヒーを飲み干した。
口の中が若干火傷をしたが、そんなことは全然気にならなかった。
そして、胸をドキドキさせながら、急ぎ足で家に帰った。
家に帰ると僕は、コンギツネがお風呂に入っている間に、封筒を開くことにした。
コンギツネがいるところで開けば、いろいろ聞かれて面倒かもと思ったからだ。
封筒の中には、1枚の手紙が入っていた。
その手紙には、
『こんにちは、いつも、お店に来てくれてありがとうございます。
今度、タチバナさんと、ぜひゆっくりお話しできたらなと思っています。
もし良ければ、お食事でも行きませんか?
ご連絡いただけたら嬉しいです。
LINE ID : **** 』
と書かれており、最後にはLINEのIDが記載されていた。
‥‥‥‥
‥まじか!?
これは完全に、女性からのお誘いの手紙だ。
まさか、行きつけの店の店員さんからこんな手紙をもらう日が来るなんて‥。
正直、めちゃくちゃ嬉しい。
こんなドラマみたいな形で、恋が始まることがあるのか‥。
‥いやいや‥。
まだ一度も2人で会ってもいないのに、そこまで期待するのは早計というものか‥。
‥いやしかし、好意のない相手に、こんな手紙を渡さないだろう‥。
僕は、ひとしきり自問自答を繰り返したあと、
とりあえず、LINEを送ってみることにした。
"こんばんは。お手紙、ありがとうございました。"
こんなシンプルな文面でいいだろうか‥。
まあいいや。とりあえず、これで送ってみよう。
すると、まもなく、
ピロリンッ
と、返信が届いた。
"こんばんは。
ご連絡、ありがとうございます。
突然、お手紙なんか渡しちゃってごめんなさい。汗
お手紙にも書きましたが、良ければ、
今度ご一緒にお食事でも行きませんか?^_^ "
と書かれてあった。
‥‥
ぬはっ!デートのお誘いだ!
僕は、軽く小躍りしたくなるくらいの嬉しい気持ちになっていた。
女性とこんなやり取りをするのは、もう本当に数年ぶりだった。
知らず知らずのうちに、顔がニヤついているのが分かった。
と、そのときだった。
「ふうー、いいお湯でしたー!」
と言いながら、コンギツネがお風呂から上がってきた。
やばいっ!
僕は慌てて、サッとスマホを隠した。
すると、その動きに気がついたコンギツネは、
「ん?どうかしたんですか?」
と聞いてきた。
なんだか不審そうな目をしている。
そこで僕は、平静を取り繕いながら、
「え?何が?
別になにもないけど。」
と、答えた。
なんとか、真顔を保とうとしながら。
すると、コンギツネは、
「ふーん‥、そうですか‥。」
と、不審そうな目をしたまま言った。
‥ふう。危ないとこだった。
あんなニヤニヤしてるところを見られるところだった‥。
‥‥‥
‥いや、というか、別に、何も悪いことしてるわけじゃないのだから、何もこんな焦る必要はないのだけど‥‥。
しかし、僕はとりあえず、
その後もコンギツネの目を盗みながら、サトウさんとLINEのやり取りをし、
次の週末に会う約束を取りつけたのだった。
つづく