#28 コンギツネとブラックウィドウ

ある日の夜、

僕とコンギツネが夕飯を食べながらテレビを見ていたときだった。


ピンポーン


と、うちのインターホンが鳴った。


僕は、また誰か来たのか、と思いながら、玄関へと向かい、


「はーい。」


と、ドアを開けた。


ガチャッ


するとそこには、1人の外国人女性が立っていた。


その女性は、透き通るような白い肌をしており、髪の毛はやや赤みがかった色をしていた。

また、長いまつ毛を生やした茶色い瞳の目は、鋭い眼差しをこちらに向けており、かなりの目力を放っていた。

そして、抜群にスタイルのいいその体には、黒いボディスーツのような物をまとっていた。


なんにせよ、目が覚めるほどの美人だ。


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僕は、突然現れた見ず知らずの美人外国人女性に面くらいながら、


「あ‥、えっと‥、ど、どちらさまでしょう‥?」


と尋ねた。

それに対し、その女性は流暢な日本語で、


「こんばんは、突然の訪問失礼します。

私の名はナターシャ・ロマノフ、またの名を"ブラックウィドウ"といいます。」


と自己紹介をしてきた。


‥‥‥

‥またの名?‥ブラックウィドウ‥?

僕は、

またコンギツネ絡みの変なやつが来たのか?

と思いながらも、


「‥は、はあ。それで、そのナターシャさんがウチにどういったご用でしょうか?」


と聞いてみた。

すると、ナターシャさんは、


「玄関先で立ち話するのもアレなので、中に失礼します。」


と言い、勝手にツカツカとうちの中に上がり込んできた。


「あ、ちょっと‥。」


と、止めようとしたが、全然聞く様子は無かった。


部屋に入ってきたナターシャさんに気付いたコンギツネは、


「おわっ!だ、誰ですか‥!?」


と、驚きながら聞いていた。

‥コンギツネの知り合いではないのか‥。


それから、ナターシャさんは、

居間のテーブルの前に勝手に腰を下ろし、僕らの方を見ると、


「単刀直入に申し上げます。

私は、アメリカのヒーローチーム、

"アベンジャーズ"が所属している組織、

"シールド"から来ました。

私の目的は、こちらのお宅にある"インフィニティストーン"を確保し持ち帰ることなのです。」


と言ったのだった。


‥‥‥‥

アベンジャーズ?‥インフィニティストーン?


僕とコンギツネは、この人は何を言っているのだろうと目を見合わせた。


すると、ナターシャさんは、

長々と説明をし始めた。


アメリカには、"アイアンマン"や"キャプテンアメリカ"など、数多くのヒーローが存在します。

バラバラに活動していたヒーロー達ですが、強大な悪の力から世界の平和を守るため、一つに集まりチームを結成しました。

それが"アベンジャーズ"です。


私達アベンジャーズは、最近、

ある大きな"脅威"の存在に気づきました。

その脅威とは"サノス"。

この宇宙に存在する幾つもの星を滅ぼしてきた、凶悪極まりない宇宙人です。


サノスは、宇宙に存在する全ての生命を抹殺するため、インフィニティストーンという石を集めようとしています。

インフィニティストーンとは、この宇宙に6つ存在する神秘の石であり、

6つ全てを集めた者に、宇宙を滅ぼす力を与えると言われているのです。


だから、私達アベンジャーズは、サノスよりも先に、インフィニティストーンを探し出し、

サノスの手から守らなければいけないのです。」


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‥‥‥‥‥‥

‥ナターシャさんの話は、

まさに漫画や映画に出てくるような感じの突飛なものであり、普通ならにわかに信じられるようなものではなかった。

ただ、僕は、すでに隣りにコンギツネという非常識な存在が座っていることもあって、

正直、あまり疑ってもいなかった。


僕は、


「はあ、そうなんですか‥。

でも、うちにそんなインフィニティストーンなんてものはありませんよ。」


と言った。

何にしても、おかしなことに巻き込まれるのは嫌なので、さっさと帰ってもらおうと思った。

しかし、ナターシャさんは、


「いいえ、あなた方は、インフィニティストーンを手にしています。

何日か前、あなた方は、幕張メッセで行われたポケットモンスターの大会に参加されていたと思います。

そして、そこで赤い石の付いたバッジを受け取ったかと。

私達の調査では、その赤い石こそが、インフィニティストーンの1つ、

"リアリティストーン"なのです。」


と言ってきた。


‥‥確かに、僕らは先々月くらいに、幕張メッセポケモンの大会に参加していた。

そして、コンギツネはその大会でチャンピオンの少年を倒し、新チャンピオンに輝いていたのだ。

また、その賞品として、なんかバッジのようなものを貰ったような気もした。


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‥‥

というか、

そんな僕らも忘れてたようなことを調べてきたのか。


「ああ、そういえば確かにそんなような物を貰ったかもしれないです。

‥あれ、だけど、あれどこにやったっけかな?

‥‥ねえ、コンギツネ、

あのとき貰ったバッジってどうしたっけ?」


僕は、そのあとそのバッジをどうしたかなんて、すっかり忘れてしまっていたので、コンギツネに尋ねてみた。

すると、コンギツネは、


「‥ああ‥、えっとたしかあれは‥、

‥そんなにキレイなアクセサリーでもなかったからっていって‥、メルカリで売っちゃったんじゃなかったでしたっけ?」


と答えた。

‥‥‥‥

‥あ、そうだ!僕も思い出した。

たしか、これ別にいらないかなってことで、メルカリに出品したんだった。

たしか500円くらいで売れたんだっけ。


僕らがそんなやり取りをしていたのを見ていたナターシャさんは、みるみる顔が青ざめていった。


「‥な‥‥、う、売った‥?

‥イ、インフィニティストーンを‥‥?」


そして、ナターシャさんは、愕然とした表情でへなへなと崩れ落ちた。

どうやら、かなりショックを受けたみたいだ。


僕は、


「‥あ、ど、どうも、すみませんでした。

なんか、そんな大事な物だったなんて知らなくて‥。」


僕は、とりあえずそう言って謝ろうとした。

しかし、ナターシャさんは僕とコンギツネの方をキッと睨むと、その表情を一瞬で怒りのそれへと変えていった。


そして、ナターシャさんから僕らに対する怒涛の説教が始まった‥‥。


「あなた達はいったい何を考えているんですかっっ!?

インフィニティストーンを

売ってしまうなんて‥¥$%#*€%‥あれが

どれだけ重要な物か分かって‥#☆€¥#〒*¥○#€$☆♪€¥#%‥

‥FACKIN' JAP!!‥€$#%*%¥〆#‥」


ナターシャさんの言葉は、

感情が高ぶっているためか、ところどころ外国語になっていて、何を言っているのかよく分からなかった。

ただ、とりあえず、もの凄く怒っているのだけは伝わってきた。


僕は、


そんなこと言われたって、そんなインフィニティストーンとか知らなかったんだから、仕方ないじゃないか、


と言い返してやりたかった。

しかし、激怒している外国人女性というのはもの凄い迫力であったため、

僕は、完全に気持ちで負けてしまって、何も言い返すことが出来なかった。

横を見ると、コンギツネも同じのようで、正座をしたまま、ただただ頭を下げていた。


‥‥こういうところは、本当に日本人のダメなところなんだろうなと僕は思った。


それから、小1時間ほど僕らのことを罵倒したあと、ナターシャさんは、ようやくうちから出ていってくれた。

最後、出ていく間際、


「FACKIN' JAP!!」


と小さく吐き捨てていた。





つづく