#14 コンギツネとシュークリーム

年も変わり、仕事始めとなったその日、

コンギツネは、朝食を食べてるとき、こんなことを言ってきた。


「ねえ、タチバナさん、

私どこか変わったと思いませんか?」


‥‥?

ん?急に何を言ってるんだろう‥。


僕は、


「‥え?どういうこと?」


と、問い返した。

コンギツネは、


「だからあ、私見て、どこか変わったとこがあるなって気づきません?」


と、さらに言ってきた。


「‥ん?‥えーと‥、変わったって‥、何‥、

見た目で‥?」


「そうです。」


‥‥なんだ、このクイズは。

コンギツネはニコニコしながら、僕が何か言うのを待っている。


‥いや‥‥なんだろう‥。

そんなこと、急に言われても‥。

変わったところ?


僕は、コンギツネの姿をよく眺めてみた


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‥‥‥

しかし、別にこれといって、目につくところは無かった。


‥‥‥‥

が、しかし、僕はピンときた。


そうだ!そういえばコンギツネは、このお正月の何日かで、かなりのたくさんのお餅を食べていた。

あんこやらきな粉やら、味を変えながら、

飽きることなく幸せそうに、数十個は食べ続けていたのだ。

僕は、その光景を思い出しながら、結構自信を持ってこう言った。


「そうか!分かった!太ったんだ!」


僕が言いきった次の瞬間、コンギツネの超高速のビンタが僕の左頬に炸裂した。

生まれて初めて"首から上"が取れるかと思った。


僕は、首にむち打ちのような痛みが鈍く残る中、会社へと初仕事に出かけていった。

思わぬ負傷を抱えた中での初仕事になってしまった。

コンギツネは、部屋の中でプンプン怒っていた。


たしかに、後から考えてみたら、

女性にああいう事を言ったのは良くなかったかもしれない。

‥しかし、わからない‥。

コンギツネは、何に気がついて欲しかったのだろうか‥。




夜、僕は、無事に新年最初の出勤を終え、家に帰った。

コンギツネはまだ機嫌が悪かったが、

僕はそれを見越して、お土産にシュークリームを買っていた。

シュークリームを受け取ったコンギツネは、とりあえず機嫌を直してくれた。


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そこで、僕はあらためて、


「‥ねえ、結局今日の朝は何を言いたかったの?」


と聞いた。

そしたらコンギツネは、


「もう、しょうがないですねえ。

ほんとは、女性のこういうのは何も言わなくても気づけなきゃいけないんですけどねえ‥。」


と言いながら、


「ほら、これ、見てください!」


と、髪の毛をかき上げ、"耳"を見せてみせた。

すると、耳たぶに小さなピンク色のピアスが付いていたのだった。

そして、


「これ、

新しいピアス付けてみたんですよー!」


と楽しそうに言ったのだった‥。


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‥‥‥

‥なんだい‥、そんな事か‥。


‥そんなの、気がつけと言われたって‥‥、

耳なんて髪に隠れてあんまり見えないし‥。


‥僕は、なんだか、どっと疲れた感じがした。

そして、


「‥‥‥というか‥、

君、そこにも"耳"があるんだね‥。」


と、ボソッと、そうつっこんだが、

コンギツネは、それには気をとめることなく、嬉しそうにシュークリームを頬張っていた。


‥‥僕は、そんなコンギツネの二の腕をふと見ながら、


"太った"というのもあながち間違いではないんじゃないか?


とも思った。

もちろん、そんなことを言えば、今度こそ首を折られてしまうかもしれないので、口に出すことはしなかった。




つづく