#11 コンギツネとメリークリスマス②

2021年、12月24日(金)、23時00分、

僕と、コンギツネと、

コンギツネの弟のフォックス君の3人は、

僕の家で、サンタの衣装を身にまとっていた。


5日前にうちにやって来たサンタクロースから、代わりにプレゼント配りをして欲しいと頼まれ、

最初は、


「そんなの僕らには無理です。」


と断ろうとしたが、


「いや、大丈夫、

こんなのポスティングのバイトみたいなもんだから!

ちゃんと給料も出るから!

深夜料金だから時給いいよ!」


と、なかば強引に押し切られ、結局やることになってしまった。


気が重いが、やるからには、ちゃんとやらなければいけない。

ちゃんとプレゼントを配れなければ、この辺の子供達をがっかりさせることになってしまうのだ。

責任重大だ。


そこで、ちょっとでも人手は多い方がいいだろうと思い、コンギツネに、弟のフォックス君を呼んでもらったのだった。


僕は、


「ごめんね、フォックス君。

こんな夜中に来てもらっちゃって。」


と言った。

フォックス君はサンタ帽をかぶりながら、


「いえ、いいんですよ。

サンタになってプレゼントを配るなんて、なんだか楽しそうですし。」


と笑顔で言ってくれた。

いい子だ。


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「それじゃ、行こうか。」


僕ら3人は、アパートの外に出た。

アパートの前には、トナカイとソリが待っていた。


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そのトナカイは、


「お待ちしていました。

本日、皆さんの担当をさせたいただく

"ローレンス"と申します。

どうぞよろしくおねがいします。」


と言った‥。‥喋った!


「君、喋れるの?」


僕は、びっくりしながらトナカイに聞いた。

トナカイは、


「ええ、

ですが、日本語に関してはまだまだ勉強中ですので、

拙いところもあるかと思いますが、

その点はご理解ください。」


と、流暢に謙遜してみせた。

コンギツネは、


「はあ‥、トナカイが言葉を話すなんて‥、

ホントでたらめですね。」


と、驚き顔で言った。


‥あんたは、キツネなのにベラベラ喋っとるやないか。


「それじゃ皆さん、さっそくソリに乗ってください。

行きますよ。」


トナカイのローレンスさんにそう言われ、僕らはソリに乗りこんだ。


すると、ソリはふわっと浮き上がり、空中を走り出した。

すごい、空飛ぶソリだ!




そして、僕らのプレゼント配りが始まった。


ソリは、子供のいる家に一軒一軒まわっていった。


エントツのある家なんてほとんどないので、基本、"窓"からの侵入になる。

鍵が開いていれば、そのまま入れるが、

鍵が閉まっているところは、

"特殊なアイテムを使って外から鍵を開ける"

という作業を行った。


熱を使って、窓ガラスを丸くくり抜き、小さな穴を開けたあと、手を突っ込んで鍵を開けるのだ。

そして、中に入ったら、再びガラスを熱で接着させ穴を塞ぎ、何事も無かったようにした。


『ミッションインポッシブル』みたいなアイテムだ。


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そうして、部屋の中に侵入すると、

子供がすやすやと眠っていた。


僕らは、"サンタ袋"からプレゼントを取り出した。

その袋の内側は、

"時空転送システム"とやらになっているとのことで、

子供に人気のおもちゃが、自動的に送られてくるのだそうだ。


"ニンテンドースイッチ"やら、"鬼滅の刃グッズ"やらを取り出すと、寝ている子供の枕元にそっと置いた。


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プレゼント配りも、最初は慎重にやっていたため、1軒終えるのに結構時間がかかっていた。

だが、慣れてくると段々スピーディーになっていき、

僕らは、作業を分担しながら、

次から次へテンポよく、プレゼント配りを済ませていった。



そんな中、

ソリに乗って、次の家に向かっている途中、

前方でソリを引いているトナカイのローレンスさんが、振り返りながら、


「いやあ、皆さん素晴らしいですね。

プレゼントを配る家も、もう残りちょっとですよ。実に仕事が早い。

サンタの才能があるんじゃないですか?」


と、言ってきた。


コンギツネは嬉しそうに、


「そうですかね。

だけど、プレゼント配りもやってみたら、面白いものですね。」


と返した。

フォックス君も、


「それに、明日の朝、

ちびっ子がプレゼントを見つけたときの喜んでる顔を想像すると、なんだか嬉しくなります。」


と楽しそうにしている。


「それは、良かったです。」


と、ローレンスさんは言った。

それから、


「しかし‥、」


と、少し間を置いたあと、


「この国の子供達はいいですね。本当に平和で豊かな暮らしを送れていて‥。」


と、なんだか遠い目をしながらつぶやいた。


僕は、急に何を言うのだろうと思いながら、


「‥え?‥どういうことですか‥?」


と聞いた。

ローレンスさんは、


「あ、いや、

私は、今はこの日本担当のトナカイをやっているんですがね、

以前、20何年か前までは、アフリカの某地区の担当をしていたことがあるんですよ。」


と言った。


「その国は、内戦や紛争の絶えない所でね、

戦闘とは何の関係もない民間の人々も、

毎日命の危険にさらされているような、

危険な地域だったんですよ。」


ローレンスさんは、少し悲しそうな顔をしながら、話を続けている。


「ただ、そんな国でも当然子供はいますからね。

だから、私たちは、その国の子供達に

クリスマスにプレゼントを配るために、夏の間に

アンケートをとったんです。

どんなプレゼントが欲しいかってね。

そしたら、その国のある子供は、

何を望んだと思いますか?」


ローレンスさんは、そう聞いてきた。

僕とコンギツネとフォックス君は、分からずに黙っていた。

ローレンスさんは、


「その子は、プレゼントに、

"自動小銃"が欲しいと言ったんですよ。

自分や家族の身を守るための銃が‥。」


と言った。

僕は、衝撃を受けた。


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「もちろん、そんなものプレゼントする訳にはいきませんからね。

だから仕方なく、

私とその地区担当のサンタは、日本の"携帯ゲーム機"をプレゼントしたんです。

ひどい日常の中に、少しでも楽しい時間を与えてあげられればと思ってね。

その子は喜んでくれましたよ。


‥‥

‥だけど、

しばらくして、その子は内戦の戦闘に巻き込まれて亡くなってしまいました。

まだ、12歳でした‥。」


ローレンスさんは、昔のつらい記憶を思い出したのか、

少し目に涙を浮かべているようだった。


僕は、そんなローレンスさんの話を聞いて、

とても悲しい気持ちになった。

世界の中には、子供が戦争で命を落とすような悲惨な国もあるのだ。

コンギツネとフォックス君も、悲しそうな顔をしながら、黙って聞いていた。


ローレンスさんはさらに、


「だから、私はこの日本担当になってからは、本当に楽しく仕事が出来ています。

日本の子供達は、多くが、平和で不自由の無い生活を送れている。

おもちゃをプレゼントしてあげれば、純粋に喜んでくれる。

なんというか‥、すごく気が楽です‥。」


と言った。

それを聞いて、


「‥でも‥、」


と、黙っていたフォックス君が口を開いた。

そして、


「この日本も、ずっと平和だったわけではないですよ。

内乱や戦争が絶えない時代が何年もありました。」


と言った。

ローレンスさんは、


「そうですね、たしかに‥。

‥だから、別に、

平和であることが当たり前だっていうことは、全然ないんですよね‥。」


と、苦笑しながらつぶやいた。

そして、こちらに振り返りながら、


「いや、すみませんでした。なんだか暗い話をしてしまって。

さあ、次の家が見えてきましたよ。もうあと数軒ですからね。

頑張ってください!」


と言ったのだった。




その後、午前4時くらいに、

僕らは予定していた全部の家にプレゼントを配り終わった。


ローレンスさんは、


「いや、ありがとうございました。

皆さんのおかげで、今年も無事、プレゼントを配り終えることができました。

サンタに代わって、お礼を言わせていただきます。」


と言った。

僕は、


「あ、いえ、元はといえば、こちらがサンタクロースに怪我をさせてしまったのが悪いんですから。」


と答えた。


それから、ローレンスさんは、


「今日のお給料については、

指定してもらった銀行口座の方に、年内には振り込まれると思います。」


と、事務的な事を言ったあと、

フォックス君の方を見て、


「それから、おぼっちゃん。

君にもクリスマスプレゼントをあげましょう。

さあ、袋の中に手を入れなさい。

望む物が出てくるはずですから。」


と言った。

フォックス君は、


「え?

い、いいんですか?」


と、嬉しそうに言いながら、サンタ袋の中に手を突っ込んだ。


コンギツネは、


「いいなあ、子供は

プレゼントもらえて‥。」


と言いながら、指をくわえている。


そして、フォックス君は袋の中から

"藤田ニコル 写真集"

を取り出したのだった。


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フォックス君は、藤田ニコル 写真集を握りしめながら、


「うわあ、ありがとうございます!

これ、すごく欲しかったんですー!」


と言って、喜んでいた‥。


ローレンスさんは、それを見てにっこり微笑んだあと、


「それじゃ、私はこれで。」


と言って、ふわっと浮き上がった。

そして、


「メリークリスマス!

ミスター・タチバナとキツネの姉弟!!」


と言いながら、ソリを引き、

北の空へ飛び去っていった。


僕らはそれを眺めながら、


「メリークリスマス、メリークリスマス!

ミスター・ローレンス!!」


と叫び、手を振った。

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つづく