#19 コンギツネと謎の生き物⑤
コンギツネは、リングの上に上がり、
シゲオ君&リザードンと対峙した。
会場のちびっ子たちから、
「コンギツネさーん、がんばってー!」
と声援が上がった。
コンギツネは嬉しそうに手を振ってみせた。
突然の乱入者に対し、リングアナウンスは、
「おーっと、これはサプライズだ!
リング上に新手の挑戦者の登場だっ!
本来なら不審者として、つまみ出されるところだけど、盛り上がってるから良しとしましょう!
さて、チャンピオン、シゲオ選手、
サトル選手とのバトルに続いて、連戦になってしまいますが、
この挑戦、受けますかっ!?」
と、煽るようにシゲオ君に問いかけた。
それに対して、シゲオ君は、
「俺は別に構わないぜ!
いつ、誰の挑戦でも受けて立つ!」
と、不敵に言ったのだった。
会場が、
わーっ!!
と湧き上がった。
そして、シゲオ君は、コンギツネのことをしげしげと見ながら、
「だけど、見たことのないポケモンだなあ。
人型、いや、キツネ型ポケモンか‥?」
と言った。
コンギツネはもう帽子を脱ぎ、"キツネ耳"をあらわにしていた。
シゲオ君はさらに、
「まあ何にしろ、お姉さん、
こうして俺にバトルを挑んでくるからには、こっちはいっさい容赦はしないからな!
そのつもりでいてくれよ!」
と挑発的なことを言ってきた。
対して、コンギツネは、
「私は、サトル君とピカチュウの無念を晴らすために、あなたを倒すわっ!!」
と、言ってみせたのだった。
なんだか、カッコいいことを言ってるように見えるが、
コンギツネの顔を見てみると、目が、
"V"の字になっていた。
僕は、あの"V"はヴィトンの"V"なんだろうなと思った。
そして、
「それでは、シゲオ選手VSタチバナ選手、
バトル開始です!!」
とリングアナウンスの声が響き、
カーン!!
と、ゴングが鳴った。
シゲオ君は、
「それじゃあ、今度は、こっちから攻撃させてもらうぜ!
行け、リザードン!
"火炎放射"だ!!」
と、叫んだ。
すると、リザードンの口から再び、激しい炎が発射された。
さっきピカチュウを戦闘不能に追いやった炎がコンギツネに迫る。
危ないっ!
しかし、それに対しコンギツネは、まったく怯む様子を見せなかった。
そして、
「はああああああっ!」
と言いながら、一気に"気"を溜めると、
バッ
と両手を前に突き出した。
そして、
「くらいなさい、トカゲさんっ!!
マヒャドっ!!」
と叫んだ。
すると、コンギツネの両手の先から、
猛烈な"吹雪"が放出されたのだった。
「な、何っ!?」
思わぬ強力な技による反撃を前に、シゲオ君とリザードンは驚愕の表情を見せた。
"吹雪"はそのまま、
リング中央でリザードンの火炎放射と激突した。
ズバババババッ!!
激しい炎と、激しい吹雪が、互いにぶつかり合う、壮絶な光景が繰り広げられた。
その光景を目にした会場からは、
オーッッ!!
と盛り上がる声が上がった。
シゲオ君は、やや焦った表情を浮かべながらも、
「ま、負けるな、リザードン!!
押し返すんだ!!」
と言った。
その言葉を受けて、リザードンは、
さらに炎の勢いを強め、コンギツネのマヒャドを押し返そうとした。
ズババババッ!!
一瞬、リザードンの炎の方が優勢になったように見えた。
しかし、それに対してコンギツネは、
「やるわね!だけど、
まだまだよっ!!」
と、笑みを浮かべながら言うと、
「はああっ!!」
と、一気に気を高めた。
すると、
ゴウッッ!!
と、吹雪の勢いが急激に増した。
どうやら、さっきまでのは全力ではなかったようだ。
本気を出したコンギツネを前に、リザードンの炎は、みるみる押し返されていった。
リザードンの顔に、恐怖の表情が浮かんだのが見えた。
そして、
ズバーーンンンッッ!!!
そのまま、コンギツネのマヒャドは、リザードンに直撃したのだった。
リング上に、真っ白い粉塵が舞い上がった。
「あ、ああっ‥、リザードン‥!」
シゲオ君は、粉塵に包まれ姿が見えなくなったリザードンを心配するように叫んだ。
リザードンは、どうなってしまったんだろうか‥。
シュウウウウウウウッ
やがて、徐々に粉塵が晴れてきた。
そして、その中から、少しずつリザードンの体が見えるようになってきた。
すると、
「そ、そんな‥!リザードン‥!!」
シゲオ君が目にしたのは、完全に凍りついたリザードンの姿であった
リザードンの明らかな敗北だった。
それを目にした会場は、一瞬、シーン、と静まり返った。
が、間もなく、リングアナウンスがマイクを取ると、
「‥え、えー、‥た、只今、チャンピオンのリザードンが戦闘不能となりました。
なので‥、
よって、
今回のバトル、挑戦者、タチバナ&コンギツネの勝利となります!!」
と、高らかに宣言した。
その後、それを聞いた会場からは、堰を切ったように、
「わーっ!!」
「すごかったぞー!!」
「おめでとーー!!」
と次々に歓声が上がった。
そして、それらの歓声を受けたコンギツネは、
嬉しそうに、拳を頭上高く突き上げ、ガッツポーズをしてみせたのだった。
コンギツネの完全勝利だった。
シゲオ君は、一連の光景を目の前にして、
「‥そ、そんな‥、
リザードンが負けるなんて‥。」
とつぶやきながら、膝をつき、がっくりとうなだれていた。
かなり、ショックを受けているようだった。
僕は、サトル君のためにコンギツネに戦うように頼んだものの、
シゲオ君の落ち込んだ様子を見てると、なんだかとても可哀想な気持ちになってきた。
だが‥、そんなシゲオ君に、1人の少年が歩み寄った。サトル君だ。
サトル君はシゲオ君に、スッと手を伸ばすと、
「シゲオ、負けはしたけど、すごいバトルだったよ。
だから、落ち込む必要なんて全然無いさ。
また、ここから、一緒にやり直そうじゃないか。」
と言った。
「‥サ、サトル‥。」
そう言われて、シゲオ君は少し照れたように目を背けていたが、
やがて、サトル君の方を見ると、
立ち上がり、がっちりと握手をしたのだった。
僕は、よく分からないけど、2人が友情を深めたみたいで、良かったと思った。
その後、僕らは、幕張メッセを後にした。
ポケモンリーグの運営の人からは、
これからも"新チャンピオン"としてポケモンリーグに残ってくれ、
と強くせがまれたが、僕は、それだけは勘弁してくれと断った。
結局、チャンピオンの証だという、
"赤い石の付いたバッジ"を、
半ば無理やりに手渡され、会場を出た。
都内に向かう帰りの電車の中で、
コンギツネはかなり疲れたのか爆睡していた。
僕は、今日はいろいろ面倒なことに巻き込まれたものだなあと思いながらも、
コンギツネの活躍により、2人の少年が友情を回復することが出来たのだから、まあいいか、と小さく笑った。
と、同時に、
ヴィトンのバッグの値段をスマホで調べ、憂鬱な気分になっていた。
つづく