#12 コンギツネと年末
12月28日(火)、
いよいよ今年も残りわずかとなったその日、
コンギツネは、朝から様子がおかしかった。
どうおかしかったのかというと、
まず、僕が朝起きたときに、なんとコンギツネの方が先に起きていた。
今までは大体、僕が先に起きて、
朝食の用意が出来たあたりで、コンギツネがのそのそと起き出してくるのが定番だった。
まさに、"逆"関白宣言といった感じだったのだ。
それが、その日はずいぶん早起きをしていて、
しかも、それどころか、なんと朝食の用意までしていたのだ。
それも、トーストやら卵焼きやらといった簡単な料理ではない、名前も分からないような食べ物を作っていた。
僕は、
「あの‥、これ何‥!?」
と聞くと、コンギツネは、
「"クロックムッシュ"です。」
と答えたのだ。
‥‥‥
‥クロックムッシュ‥!?
今まで、料理の"りょ"の字も知らなかったような女が‥!?
しかも、食べてみると、これがめちゃくちゃ美味しい。
‥僕は、一体何が起こったのか理解が追いつかず、
まさに"キツネにつままれた"ような感覚のまま、会社へと出かけていった。
異変は、
夜、僕が仕事から帰ってきてからも続いた。
僕が帰ると、
「おかえりなさい。
夕食出来ていてますよ。」
と言ってきた。
エプロンをつけ、鼻歌をフンフン歌いながら、食事の準備をしている。
僕は、
「ああ‥、どうも。」
と言い、テーブルの上を見ると、
これまた、"鮭のムニエル"やら、"ミネストローネスープ"やら、かなり手の込んだ料理が並べられていた。
今までも、夕ごはんを作ってくれることはあった。しかしそれは、冷凍食品のおかずやら、野菜炒めやら、簡素な物がほとんどだった。
ある時などは、天ぷらを揚げようとして失敗し、油に引火させてしまい、
慌ててそれを消火しようとして、さらに油をかけ、大惨事を巻き起こしたこともあった。
とにかく、こんな手の込んだ料理が作れるような素養があるとは思えなかった。
‥完全に変だ。
僕は、異常に美味しいそれらの料理を食べながら、
訝しげな目でコンギツネのことを眺めていた。
こいつ、ニセモノじゃないのか‥。
コンギツネは、鼻歌をフンフン歌いながら洗い物をしている。
と、そのとき、
バタっ
コンギツネが急に倒れた。
「‥え!?ちょっと、どうした!?
大丈夫!?」
僕は、突然の出来事に驚き、慌てて台所で倒れているコンギツネに駆け寄った。
そして、助け起こそうとコンギツネに触れると、
「熱っ!」
身体が異様に熱い。どうやら、すごい熱があるみたいだった。
コンギツネは、フウフウと苦しそうに息をしている。
僕は、とりあえず、コンギツネをベッドに寝かせ、体温計で熱を測ってみると、
39.5℃もあった。
どうやら、こないだのクリスマスのとき、夜中の間ずっと外でプレゼント配りをしていたせいで、風邪をひいてしまったようだ。
と、
同時に僕は、
はっと気がついた。
今日のコンギツネがずっと、いつもと比べて変だったのは、
この"高熱"のせいだったんじゃないのか。
これで、ようやく合点が入った。
「‥すみません、面倒かけますう‥。」
熱で火照った顔をしたコンギツネは、布団をかぶったまま、小さい声でそう言った。
「いいよ、こういうときは気にしないで。」
僕はそう言い、氷枕を用意してやった。
しかし、キツネの妖怪も、人並に風邪をひいたりするものなんだなあ、と僕は思った。
翌日は、もう会社の方が年末年始の休みに入ったため、僕は仕事が休みだった。
昨晩は、コンギツネをベッドに寝かせたため、僕はソファで寝ていた。
僕は、まだ寝ているコンギツネのところへ行き、
「おはよう、どう調子は?」
と聞いた。
コンギツネは、こちらの方に向きながら、
「おかげさまで、大分良くなったような気がします。」
と言った。
熱を測ってみると、36.8℃だった。
良かった、下がった。
「とりあえず、熱が下がって良かったけど、まだ病み上がりだから、今日は安静にしてた方ががいいよ。
何か食べたいものある?買ってくるけど。」
と、僕が尋ねると、
「ありがとうございます。
えーと、それじゃ、アイスが食べたいです。」
と答えた。
僕が、近所のスーパーに行くために家を出ようとすると、後ろから、
「‥あ、ハーゲンダッツでお願いします!」
と、付け加えてきた。
僕は、いつもの感じが戻ってきたみたいだと、ちょっと安心した。
つづく