#27 コンギツネとバレンタインデー④

「‥タ、タヌキの妖怪‥、ポンダヌキ‥?」


僕は目の前で"本当の姿"とやらを現したサトウさんを見ながら、

またおかしなやつが現れたのか‥

と思った。

と、同時に、せっかく知り合った女性が、人外の存在であったことに、なんだかとてもガッカリした。


一方、サトウさん‥‥ポンダヌキさんは、僕の方を見ると、


「あ、タチバナさん、びっくりしました?

今まで正体を隠しててごめんなさいね。

私って、普段は上手く人間に化けて人間社会の中に紛れて暮らしているんだけど、

実は、もう1000年以上も生きてる

"化け狸"なのですよ。」


と、オホホホと笑いながら言ったのだった。


‥‥‥化け狸‥。

‥キツネの次はタヌキか‥。


‥僕は正直、おかしなやつが現れることには何かもう慣れてきているので、

最早あんまり驚いてはいなかった。

そこで、


「‥いや、まあ‥、

そうだったんですね‥。

‥それで、ポンダヌキさんは、コンギツネと知り合いなんですか?」


と、疑問に感じていたことを聞いてみた。

そうすると、ポンダヌキさんは、


「ええ、そうなんですよ。

私とコンちゃんは、子供の頃からの幼なじみなんです。

大の仲良しの親友だったんですよ。

ねえ、コンちゃん?」


と、ニコニコしながら答えたのだった。


しかし、その言葉を聞いたコンギツネは、急に割って入ってきて、


「何言ってんのよ!私とあんたが親友ですって!

ふざけんじゃないわよ!

あんたが昔私に何したか忘れたの!?」


と、すごい剣幕で言ってきた。

何やら、えらい怒っている様子だった。

僕は、


「え?‥な、何?

昔、君ら何かあったの?」


と尋ねてみた。

するとコンギツネは、


「‥聞いてください、タチバナさん。

あれはずっと昔、まだ私が幼ない少女だった頃のこと、

私、好きな男の子が出来たことがあったんです。

でも、そのときの私は、まだ純粋な少女でしたから、なかなかそのことを相手に打ち明けることも出来ずにいました。

それで、その恋の悩みをこの女に相談してみたんです。

その時は、友達だと思っていたので‥。」


と、話し始めた。

そして、ポンダヌキさんのことをキッと睨むと、


「‥そしたら、なんとこの女は‥、

あろうことか‥、

その2日後に、その男の子と付き合っていたんですよ!」


と言ったのだった。


‥‥‥‥‥‥‥

何だそりゃ?


「‥‥えーと、何?つまり‥、

昔、君が好きだった男の子を彼女にとられたから、彼女に怒っているってこと‥?」


と、僕は聞いた。

すると、コンギツネは、


「そうです!しかも、1回だけじゃないんです!

そんなことが、3回も4回もあったんです!

‥この女は、私に嫌がらせするために、私が好きだった男の子を寝取るということを繰り返していたんです!」


と、怒りでカッカしながら、捲し立てた。


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‥なんだか、よく分からないが、

女同士の壮絶な争いがあったということか。


一方、コンギツネの怒りの言葉を聞いたポンダヌキさんは、


「あははは、そうだったかしらね。

でも、だって、私、コンちゃんの悔しそうな顔を見るのがたまらなく好きだったのよね。

だって、コンちゃんの悔しそうな顔って、すっごくカワイイんだもん!」


と言ってのけたのだった。


‥‥‥‥

‥やばい、この人サイコパスだ。


ポンダヌキさんは、さらに、


「それで、私最近、コンちゃんが封印から解かれたってことを風の噂で聞いたのね。

しかも人間の男性の家に居候しているらしいってことも。

で、そのコンちゃんがお世話になってる男性ってのがどんな人かなーって気になって、

それで、スタバの店員に化けてちょっと近づいてみることにしたのよ。


と言った。


‥‥‥

‥何だい、それ‥。

その男性が僕ってことか‥。


僕は、さっきまで、自分に新しい恋が訪れるのかもと思ってドキドキしていた。

なのにまさか、こんなオチが待っていたとは‥。

僕は、チョコとか手紙とかもらって喜んでた自分のことが、なんかすごく恥ずかしくなった。


しかし、ポンダヌキさんは、僕の方を見つめると、


「あ、だけどね、タチバナさん。

私が、あなたのこと素敵な人だなって思ってたことは本当なのよ。

だから、どうかしら?

そこのキツネ女なんか家から追い出して、私とお付き合いしません?

きっと、濃厚な大人のお付き合いが出来ると思うんだけど。」


と、微笑みながら言ってきたのだった。


いや、それはさすがにちょっと、

と、僕が言おうとした次の瞬間、


ゴウッッ!!


と、コンギツネが特大の"メラゾーマ"を、ポンダヌキさんに向けて放っていた。


ポンダヌキさんは、そのメラゾーマをヒラリとかわすと、


「あらあら、コンちゃん。

あなたって、相変わらず粗暴な子ね。

ほんとに喧嘩っ早いんだから。」


と、余裕たっぷりにそう言った。

それに対しコンギツネは、


「黙れ、クソダヌキ!

今度またふざけたこと言ったら殺すわよ!!」


と、激しく怒りながら叫んでいた。


「あらやだ、怖い怖い。

それじゃ、今日のところは退散するわ。

じゃあね、タチバナさん、

また、そのうちお会いしましょうね!」


それから、ポンダヌキさんはそう言うと、


ドロンッ


と、煙とともに消えたのだった。


‥‥‥

一体なんだったんだ‥。

‥僕は、今の嵐のような一連の出来事に、感情が追いつかずにいた。


一方、コンギツネは、

さっきまでポンダヌキさんがいた場所を睨みながら、肩で息をしていた。



その後、僕らは家に帰ることにした。

もう辺りは暗くなってきていた


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コンギツネは、その帰るその道すがら、


「ところで‥、

タチバナさんもタチバナさんですよ!?

あんな、性悪女の誘いにホイホイついていくなんて、どういうことですか!」


と、プンプン怒りながら言ってきた。

僕は、なぜ怒られているのかよく分からなかったけど、


「‥はあ、すみませんでした‥。」


と、とりあえず謝っておいた。




つづく