#21 コンギツネの里帰り②

「ここ笠間は、"笠間稲荷神社"という有名な神社もあって、私たちキツネにとっては、ゆかりの地なんですよ。」


と、コンギツネはそう言って説明した。

僕も、寺社仏閣に関して別に詳しいわけではないのだが、

日本の神道では、キツネが、"お稲荷様"という神様として崇拝されているということは知っていた。

そして、笠間稲荷神社は、日本三大稲荷のひとつと言われているほど、全国でもそこそこ有名な神社らしい。


僕らは、せっかく笠間に来たのだからと、コンギツネの実家に向かう前に、

笠間稲荷に軽く参拝をしに行った。

コンギツネは、神社の境内に置いてあるキツネの石像を見て、なんだか懐かしそうな顔をしていた。


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その後、僕らは、神社を後にし、

民家や田畑に囲まれた道を、コンギツネの案内で車を走らせた。

遠くには、高い山が見えた。あれは、筑波山らしい。


コンギツネは、車の窓から周囲をキョロキョロ眺めながら、


「この辺りも、ずいぶん昔と変わっちゃってますね。」


と言った。

昔っていうのは、1000年前のことを言っているのだろうから、それはそうだろう。


「でも、実家の場所は、私まだ覚えてますから大丈夫です!」


と、付け加えてきた。

帰巣本能みたいなものだろうか。


やがて僕らは、集落から外れたところにある、一軒の家に近づいた。

コンギツネは、その屋敷を車窓越しに指差しながら、


「あ、あそこですかね。」


と言った。

‥コンギツネが指差すその家を見て僕は驚いた。


「え?‥あの家?

‥うそぉ?」


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それは、ずいぶんと綺麗で立派な、そして近代的な邸宅だった。


僕は、正直、キツネの妖怪の実家と言うからには、

もっと、おどろおどろしい、化け物屋敷みたいなのを想像していた。

でなければ、山奥の薄暗い洞窟の中とかかと思っていた。

少なくとも、こんな綺麗な家だとは、思ってもみなかった。


「なんか‥、思ってたのと違った‥。」


と僕は言った。

コンギツネは、


「昔はもっと和風の家だったんですけどね。

建て替えたんですかね。」


と答えた。


それから、僕らは、家の近くに車を停めた。

そして、玄関の方に向かい、インターホンを押した。


ピンポーン


と音が鳴った。

めっちゃ普通の家やないか。


すると、間もなく、


「はーい、少しお待ち下さーい。」


という声が、戸の中から聞こえてきた。

僕は、いよいよコンギツネの両親が現れるのかと思うと、なんだかドキドキした。

そして、


ガチャッ


と、扉が開いた。

すると中から1人の女性が顔を出したのだった。


その人は、すらりとした美人だった。若そうにも見えるが、40代くらいにも見える、年齢不詳といった感じの人だ。

だが、頭の上を見てみると、

やはりというか、キツネの耳が付いていた。

そして、お尻には尻尾も。


この人が、コンギツネのお母さんなのだろうか‥?


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しかし、コンギツネは、少し緊張した面持ちで、


「あ、ミタさん。お久しぶりです。」


と言った。

‥‥‥

‥ん?‥ミタさん?


それに対し、その女性は、


「これはこれは、コンお嬢様。お帰りなさいませ。

お待ちしていました。

本当にお久しぶりでございます。」


と言ったのだった。


‥‥何?‥コンお嬢様‥?


僕は、コンギツネに小声で、


「‥ねえ、この人が君のお母さんじゃないの?」


と聞いた。

すると、コンギツネは、


「あ、いえ、違います。

彼女は、うちの家政婦の

"ミタギツネ"さんです。

私やフォックスが小さいときからお世話をしてくれていた人なのです。」


と言った‥。

‥家政婦!?

すごいな。家政婦なんか雇っているのか。


それから、そのミタギツネさんは、僕の方を見ると、


「おや‥?ところで、こちらの方は‥?」


と聞いてきた。

僕は慌てて、


「あ、えーと、

ど、どうも、初めまして。僕、タチバナといいます。」


と、とりあえず挨拶した。

キツネの妖怪とはいえ、突然、美人に見つめられドキッとした。

それから、コンギツネが、


タチバナさんは、私が東京でお世話になっている人なんです。」


と紹介してくれた。

それを聞いてミタさんは、


「あら、そうでしたか。

お嬢様と仲良くしてくださっている方なのですね。それはそれは、お礼を申し上げます。


と言って、深々と頭を下げてくれた。

僕は、


「あ、いえそんな、別にそんな大したことは‥。」


と、たじろぎながら言った。


それから、コンギツネは、


「あ、じゃあそしたら、ミタさん。

こんな玄関先で立ち話もなんだから、とりあえず中に入っていい?」


と言いながら、家の中に入ろうとした。

すると、次の瞬間、


バッ


と、ミタさんは手を伸ばして、

コンギツネが家の中に入るのを妨げた。

そして、


「お待ちください!」


と、強い口調で言ったのだった。

コンギツネは、びっくりした顔をして、


「え?ど、どうしたのよ、ミタさん?」


と聞いた。

それに対してミタさんは、


「申し訳ありませんが、お嬢様をこのまま、屋敷の中に入れる訳にはいきません!」


と、言い放った。

‥‥

‥え?‥どゆこと‥?


コンギツネは、


「え?な、なんでよ、ミタさん?」


と、驚き顔で聞いた。

するとミタさんは、


「失礼ながら‥‥、

私は、お嬢様が幼い時より、身の回りのお世話をさせていただいておりました。

僭越ではございますが、私がお嬢様を育てたと言っても過言ではないかと思っております。」


と、コンギツネを見ながら、やや穏やかな顔で言った。

コンギツネは、


「‥え?‥あ、ああ、そうね‥。

私も感謝してるけど‥。」


と、突然何を言い出すのだろうといった表情で答えた。

するとミタさんは、ここから急にガラッと厳しい顔つきに変わり、


「‥ところが‥、

そんなお嬢様は、

1000年前、人間たちに対し数々の悪さ、愚行を働き、

その報復として、あろうことか、カップ麺に封印されてしまうという醜態を晒してしまいました。

その結果、1000年以上も家に帰らず、ご両親に心配をかけるという、不良娘になり下がってしまったのです!」


と、丁寧な口調ではあるが、ひどく辛辣な言葉を浴びせてきたのだった。

家政婦からの唐突なディスりに、

コンギツネは、


「え‥、な‥、そんな‥。」


と、ショックで言葉を失ってしまっていた。

ミタさんは、さらに、


「それもこれも全て、お嬢様のお世話しておりましたこの私の、監督不行き届きということに他なりません。

なのに、このままお嬢様を、お父上とお母上に会わせてしまっては、私が、ご両親に顔向けが出来ないのです!」


と、矢継ぎ早に捲し立ててきた。

僕は、


「‥あ、あの‥、なにもそこまで言わなくても‥。」


と、どうにかフォローしようとした。

しかし、ミタさんは聞くことなく、


「なので、こうなってしまった責任は、この私自身が取らなければならないのです。」


と言った。そして、


バッ


と、コンギツネに向け、いきなり両手を突き出すと、


「はあああああああっっ!!」


と言いながら、"気"を溜め始めた。

ゴゴゴゴゴ、と空気が震える。

近くの木から、小鳥がパタパタと逃げ始めた。


コンギツネは、ギョッとして、


「‥え?‥ちょっと、ミタさん、何を‥!?」


と言いながら後退った。


それに対しミタさんは、真面目な表情で、


「私は‥、

お嬢様を不良にしてしまった責任を取るために‥‥、

‥‥この場でお嬢様を殺して、私も死にます!!」


と、恐ろしいことを高らかと言い放った。


そして、そのまま一気に"気"を高めると、

コンギツネに向け、

巨大な火の玉、"メラゾーマ"を放ってきたのだった。




つづく


#20 コンギツネの里帰り

ある週末、

僕は、コンギツネと、"茨城県笠間市"にやって来ていた。

レンタカーを借り、東京から2時間程をかけ、高速道路をひたすら北上して来たのだ。


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茨城県のちょうど中央辺りに位置する笠間市は、東京と比べるとかなりの田舎といった感じの所だった。


車で道路を走っていても、周りに見えるのは山や畑ばかり。高いビルなどは皆無だ。

自然いっぱいの土地である。


「あ、見てください。ほら、あそこ。

タヌキさんがいますよ。」


コンギツネは、そう言って車の窓を開け、指を差した。

僕は、コンギツネが指差した方を見てみると、本当にタヌキがトコトコ歩いていた。

すごい。こんな道路の近くまで野生のタヌキがやってくるんだ。

僕は、初めて野生のタヌキを見たことに、ちょっと感動していた。


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そもそも僕は、この笠間市に来るのは、今日が生まれて初めてだった。

というか、今まで"笠間"という場所があることすら知らなかった。


なのに、なぜ、僕らがこの笠間市にやって来たのかというと、

話は2日前にさかのぼる。




その日、

僕は、仕事から帰ったあと、家でゆっくりくつろいでいた。

コンギツネはお風呂に入っていた。

すると、


〜♪


と、僕のスマホの着信音が鳴った。

電話だ。

誰からだろうと思い、スマホの画面を見ると、知らない番号が表示されていた。

僕は、


ピッ


と、とりあえず電話に出た。


「はい、もしもし。」


すると、電話の相手は、


「あ、もしもし。

すみません、夜分遅くに申し訳ありませんが、

そちらにコンギツネはいますでしょうか?」


と言ってきた。


‥‥‥‥

‥ん!?


な、なんだって!?

なんで、こいつはコンギツネのことを知っているんだ!?


僕は焦りながらも、


「‥え‥?あ、あの‥コンギツネって‥、

す、すみません、そちら、どちら様でしょうか‥?」


と聞いた。

一体、何者なんだ?

すると電話の主は、


「あ、すみません、申し遅れました。私、

コンギツネの

"母"でございます。」


と、言ったのだった。


‥‥‥

え?

‥何ですと!?‥"母"!?


僕は、驚愕した。

マジか!?


と、ちょうどその時、


「ふうー、サッパリしましたー。」


と、言いながらコンギツネがお風呂から上がってきた。

良かった。ちょうどいい所に出てきた。

僕はコンギツネに、


「あ、ねえちょっと、

今、なんか、君のお母さんて言う人から、電話がかかってきてんだけど‥。」


と言った。

すると、コンギツネはギョッとした顔をして、


「‥え!?

‥マ、マジですか‥‥。」


と言った。


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コンギツネは、


「‥ちょ、ちょっと、かわってもらっていいですか?」


と言い、僕から電話を受け取った。

そして、


「‥え‥と‥、あ、あの、

もしもし‥。」


と、恐る恐るといった感じで電話に出た。

すると、電話の向こうから、


「あ、もしもし、あんたコンギツネなの?

ちょっと、あんた、今何やってんのよ!?」


と、聞こえてきた。

スピーカーホンでもないのに、僕にもよく聞こえてくる大きい声だった。

コンギツネは、


「え‥?‥ちょっと、お母さん‥?

どうしたのよ、急に、

電話なんかかけてきて‥?」


と、気まずそうに言った。

どうやら、本当にコンギツネの母親みたいだ。

電話の向こうのコンギツネの母は、


「どうしたのじゃないわよ!

あんた、久しぶりに封印から解かれたそうじゃない!

なのに、一度もうちに帰ってこないで!

まったく、一体、何やってんのよ!?

ちゃんと、ご飯とか食べてんの!?」


と、強い口調でそう言ってきた。

実家の母親が、娘のことを心配している感じだ。

コンギツネは、


「だ、大丈夫よ、別に心配しなくても!

私は私で、ちゃんとやってるんだから!」


と、しどろもどろで答えた。

母親は、


「何言ってんのよ、まったく、

この不良娘が!

とにかく、一度うちに帰ってきなさい!

お父さんも会いたがってるわよ!」


と言ったあと、


ガチャッ


と、電話を切ったのだった。


ツー、ツー。


‥‥‥‥‥

なんだか、気まずい時間がながれた。


「‥あ、‥えっと‥、

君‥、ご両親とかいたんだね。」


僕は、とりあえずコンギツネにそう聞いてみた。

コンギツネは、


「‥あ、は、はい‥、

そうです。

私とフォックスの両親です。」


と、答えた。

親との会話を聞かれたからか、少し恥ずかしそうな顔をしている。

僕は、


「‥そっか、まあ、でも、そうだよね。

そりゃ君にも、両親くらいいるよね。

‥‥ところで、なんか、会いに来いみたいなこと言われてたけど‥。」


と、さらに聞いてみた。

すると、コンギツネは、


「‥あー、‥えっと、そうですね‥、

まあ、なんていうか、私が封印されて以来、ずっと会ってなかったんで‥、

なんか少し心配してるみたいでしたね‥。」


と答えた。

封印されて以来‥ということは、もう1000年くらい会っていないということか。

そりゃ、心配するわ。


僕は、


「ホントかい。そしたら、早く会いに行ってあげた方がいいんじゃないの?」


と言った。

誰であれ、親を心配させることは良くないと思った。

それに対しコンギツネは、


「そ、そうですね‥。

まあ、あんまり心配かけるのも良くないし、

一度、帰ってみようかな‥。」


とつぶやいた。

それから、僕の方を見て、


「‥あの、そしたら、タチバナさん、

お願いなんですけど、

タチバナさんもいっしょに来てくれませんか?」


と頼んできたのだった。


僕は、びっくりした。


「‥え!?なんで!?

やだよ、1人で行けばいいじゃん!」


なんかよく分からないけど、とにかくそんな、めんどくさそうなこと、御免だ、

と思った。


しかし、コンギツネは、


「お願いします!

実家に行くの久しぶりすぎて、1人だとなんか気まずいんです!

それに、1人で帰ったら、そのまま実家にいろとか言われちゃうかもしれないですし!」


と言って食い下がってきた。


‥別にそれは、僕がいっしょに行ったところで、変わらないんじゃ‥。


「‥ところで、君の実家ってどこなの?」


僕は、とりあえずそう聞いてみた。

コンギツネは、


「"笠間"です。

今でいうところの、茨城県笠間市です。」


と答えたのだった。




つづく


#19 コンギツネと謎の生き物⑤

コンギツネは、リングの上に上がり、

シゲオ君&リザードンと対峙した。


会場のちびっ子たちから、


「コンギツネさーん、がんばってー!」


と声援が上がった。

コンギツネは嬉しそうに手を振ってみせた。


突然の乱入者に対し、リングアナウンスは、


「おーっと、これはサプライズだ!

リング上に新手の挑戦者の登場だっ!


本来なら不審者として、つまみ出されるところだけど、盛り上がってるから良しとしましょう!


さて、チャンピオン、シゲオ選手、

サトル選手とのバトルに続いて、連戦になってしまいますが、

この挑戦、受けますかっ!?」


と、煽るようにシゲオ君に問いかけた。

それに対して、シゲオ君は、


「俺は別に構わないぜ!

いつ、誰の挑戦でも受けて立つ!」


と、不敵に言ったのだった。

会場が、


わーっ!!


と湧き上がった。


そして、シゲオ君は、コンギツネのことをしげしげと見ながら、


「だけど、見たことのないポケモンだなあ。

人型、いや、キツネ型ポケモンか‥?」


と言った。

コンギツネはもう帽子を脱ぎ、"キツネ耳"をあらわにしていた。

シゲオ君はさらに、


「まあ何にしろ、お姉さん、

こうして俺にバトルを挑んでくるからには、こっちはいっさい容赦はしないからな!

そのつもりでいてくれよ!」


と挑発的なことを言ってきた。

対して、コンギツネは、


「私は、サトル君とピカチュウの無念を晴らすために、あなたを倒すわっ!!」


と、言ってみせたのだった。


なんだか、カッコいいことを言ってるように見えるが、

コンギツネの顔を見てみると、目が、

"V"の字になっていた。

僕は、あの"V"はヴィトンの"V"なんだろうなと思った。


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そして、


「それでは、シゲオ選手VSタチバナ選手、

バトル開始です!!」


とリングアナウンスの声が響き、


カーン!!


と、ゴングが鳴った。


シゲオ君は、


「それじゃあ、今度は、こっちから攻撃させてもらうぜ!

行け、リザードン

"火炎放射"だ!!」


と、叫んだ。

すると、リザードンの口から再び、激しい炎が発射された。

さっきピカチュウを戦闘不能に追いやった炎がコンギツネに迫る。


危ないっ!


しかし、それに対しコンギツネは、まったく怯む様子を見せなかった。

そして、


「はああああああっ!」


と言いながら、一気に"気"を溜めると、


バッ


と両手を前に突き出した。

そして、


「くらいなさい、トカゲさんっ!!

マヒャドっ!!」


と叫んだ。

すると、コンギツネの両手の先から、

猛烈な"吹雪"が放出されたのだった。


「な、何っ!?」


思わぬ強力な技による反撃を前に、シゲオ君とリザードンは驚愕の表情を見せた。

"吹雪"はそのまま、

リング中央でリザードンの火炎放射と激突した。


ズバババババッ!!


激しい炎と、激しい吹雪が、互いにぶつかり合う、壮絶な光景が繰り広げられた。


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その光景を目にした会場からは、


オーッッ!!


と盛り上がる声が上がった。


シゲオ君は、やや焦った表情を浮かべながらも、


「ま、負けるな、リザードン!!

押し返すんだ!!」


と言った。

その言葉を受けて、リザードンは、

さらに炎の勢いを強め、コンギツネのマヒャドを押し返そうとした。


ズババババッ!!


一瞬、リザードンの炎の方が優勢になったように見えた。

しかし、それに対してコンギツネは、


「やるわね!だけど、

まだまだよっ!!」


と、笑みを浮かべながら言うと、


「はああっ!!」


と、一気に気を高めた。

すると、


ゴウッッ!!


と、吹雪の勢いが急激に増した。

どうやら、さっきまでのは全力ではなかったようだ。


本気を出したコンギツネを前に、リザードンの炎は、みるみる押し返されていった。

リザードンの顔に、恐怖の表情が浮かんだのが見えた。


そして、


ズバーーンンンッッ!!!


そのまま、コンギツネのマヒャドは、リザードンに直撃したのだった。


リング上に、真っ白い粉塵が舞い上がった。


「あ、ああっ‥、リザードン‥!」


シゲオ君は、粉塵に包まれ姿が見えなくなったリザードンを心配するように叫んだ。

リザードンは、どうなってしまったんだろうか‥。


シュウウウウウウウッ


やがて、徐々に粉塵が晴れてきた。

そして、その中から、少しずつリザードンの体が見えるようになってきた。


すると、


「そ、そんな‥!リザードン‥!!」


シゲオ君が目にしたのは、完全に凍りついたリザードンの姿であった


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リザードンの明らかな敗北だった。


それを目にした会場は、一瞬、シーン、と静まり返った。

が、間もなく、リングアナウンスがマイクを取ると、


「‥え、えー、‥た、只今、チャンピオンのリザードンが戦闘不能となりました。

なので‥、

よって、

今回のバトル、挑戦者、タチバナ&コンギツネの勝利となります!!」


と、高らかに宣言した。


その後、それを聞いた会場からは、堰を切ったように、


「わーっ!!」


「すごかったぞー!!」


「おめでとーー!!」


と次々に歓声が上がった。

そして、それらの歓声を受けたコンギツネは、

嬉しそうに、拳を頭上高く突き上げ、ガッツポーズをしてみせたのだった。


コンギツネの完全勝利だった。



シゲオ君は、一連の光景を目の前にして、


「‥そ、そんな‥、

リザードンが負けるなんて‥。」


とつぶやきながら、膝をつき、がっくりとうなだれていた。

かなり、ショックを受けているようだった。

僕は、サトル君のためにコンギツネに戦うように頼んだものの、

シゲオ君の落ち込んだ様子を見てると、なんだかとても可哀想な気持ちになってきた。


だが‥、そんなシゲオ君に、1人の少年が歩み寄った。サトル君だ。

サトル君はシゲオ君に、スッと手を伸ばすと、


「シゲオ、負けはしたけど、すごいバトルだったよ。

だから、落ち込む必要なんて全然無いさ。

また、ここから、一緒にやり直そうじゃないか。」


と言った。


「‥サ、サトル‥。」


そう言われて、シゲオ君は少し照れたように目を背けていたが、

やがて、サトル君の方を見ると、

立ち上がり、がっちりと握手をしたのだった。


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僕は、よく分からないけど、2人が友情を深めたみたいで、良かったと思った。




その後、僕らは、幕張メッセを後にした。


ポケモンリーグの運営の人からは、

これからも"新チャンピオン"としてポケモンリーグに残ってくれ、

と強くせがまれたが、僕は、それだけは勘弁してくれと断った。


結局、チャンピオンの証だという、

"赤い石の付いたバッジ"を、

半ば無理やりに手渡され、会場を出た。


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都内に向かう帰りの電車の中で、

コンギツネはかなり疲れたのか爆睡していた。


僕は、今日はいろいろ面倒なことに巻き込まれたものだなあと思いながらも、

コンギツネの活躍により、2人の少年が友情を回復することが出来たのだから、まあいいか、と小さく笑った。

と、同時に、

ヴィトンのバッグの値段をスマホで調べ、憂鬱な気分になっていた。




つづく


#18 コンギツネと謎の生き物④

サトル君のピカチュウは、

シゲオ君のリザードンに圧倒的な力の差を見せつけられ敗れた。


シゲオ君は勝利の高笑いを上げていた。


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一方サトル君は、

全身に火傷を負い、ぐったりとして動かないピカチュウを抱きかかえたまま、

膝をつき、敗北に打ちひしがれていた。


とても無残な光景だった。

僕も、会場中の観客達も、その姿を、すごくいたたまれない気持ちで見つめていた。

コンギツネも横で、


「サトル君‥、かわいそうに‥。」


とつぶやきながら、目を潤ませていた。


そんな中、会場のリングアナウンスが、


「え、えー‥‥、

そ、それでは、ただいまのバトル、

サトル選手のピカチュウが戦闘不能となりましたため、

チャンピオン、シゲオ選手の勝利となります。」


と、シゲオ君の勝ち名乗りを上げたのだった。

会場から、パラパラと拍手が起こった。


‥と、そのときだった。


「‥ちょっと‥、

待ってください!」


と、

サトル君がピカチュウを抱きかかえたまま、急に立ち上がり叫んだ。

突然のことに、会場中がシンとする。

‥どうしたんだろう?


シゲオ君は、


「何だ?敗者が、まだ何か言いたいことがあるのか?」


と、ニヤニヤしながら、サトル君に尋ねた。

するとサトル君は、


「‥確かに、僕は‥、

僕とピカチュウは、おまえに負けた。

完敗だった‥。それは認める。


‥だけど、まだ終わってはいないんだ。」


と、シゲオ君の方を、見ながら言った。

会場中の人が、何を言っているのだろうとザワザワした。


シゲオ君は、そんなみんなの声を代表するように、


「‥なんだいそりゃ?

‥どういうことだ?サトル。」


と聞いた。

それに対しサトル君は、


「確かに、おまえは強かったよ、シゲオ。

そう、僕より完全に強かった。

‥だけどね、シゲオ。今日、この会場には、

そんな、おまえよりも

さらに強い"ポケモン使い"が来てるんだ!」


と言い放ったのだった。

‥さらに強いポケモン使い‥‥?


そんなふうに言われたシゲオ君は、少しムッとした顔をした。そして、


「‥なんだと?誰だってんだ、そいつは!?」


と聞いた。

するとサトル君は、スッとこちらの方を指差し、


「‥それは‥、

あそこにいる、タチバナさんだ!」


と、僕を見ながら言ったのだった‥。


‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥何!?


会場中が、一斉に驚いたような表情で僕の方を見た。

だが、誰よりも僕が驚いていた。

あの子は、いきなり何を言い出すんだろう、と思った。

コンギツネも、横でびっくりした顔をしている。


そんな中、サトル君は、ピカチュウモンスターボールに戻すと、


サッ


とリングから飛び降りた。

そして、僕の方につかつかとやって来ると、


タチバナさん、お願いします!

あなたのポケモンのコンギツネさんで、シゲオのリザードンを倒してもらえませんか!」


と、言ってきたのだった。


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‥‥‥‥

‥‥はあ!?

一体、何を言っているんだ‥。


僕は、


「‥お、おいおい、

いや、突然、何を訳の分からないことを言ってるんだ!?

アホか、君は?

そんなこと、できるわけないだろう!」


と強い口調で答えた。

コンギツネも、


「わ、私が倒すって‥、

なんで私がそんなことしなくちゃいけないんですか!?」


と怒り顔で言った。

そりゃそうだ。


しかし、サトル君は、まったく引くことなく、


「いえ、この前も言いましたが、

そのコンギツネさんが、普通の人間でないということは、見れば分かります。

それどころか、かなりの強さを秘めたポケモンだということも、僕には、はっきり分かるんです!

だから、あいつの、

シゲオのリザードンを倒すことができるのは、きっと、コンギツネさんしかいないんです!」


と言ってきた。

どうやら、サトル君は、まだコンギツネのことをポケモンだと思っているようだ。

そこで僕は、


「いや、だからね‥、

このコンギツネは、まあ人間ではないかもしれないけれども、

別にポケモンでもないんだよ!

ほら。こないだ、君が持ってた図鑑にも載ってなかっただろ?」


と諭すように言った。

引き下がってくれと思った。

しかし、サトル君は、


「大丈夫です。

そもそも、ポケットモンスターという生き物に、明確な定義は無いんです。

だから、人間でも普通の動物でもない

"謎の生き物"であれば、ポケモンバトルに参加することができるんです。」


と言ったのだった。

‥何だ、その曖昧なルールは?


僕は、とにかくなんとか断ろうと、


「‥いや、だとしても‥、

そもそも彼女が戦う意味が分からないし‥。

それに、彼女にそんな危険なこと、させらんないよ‥。」


と、コンギツネを指差しながら言った。

コンギツネも頷いている。


だがサトル君は、


バッ


と頭を深く下げながら、


「そこをなんとか、お願いします!

別に、かたきを討って欲しいとか、そういうことではないんです。

あくまで僕は、ちゃんとしたバトルで負けた訳だから、それは事実として、受け止めます!

ただ、僕は、

あいつに、シゲオに

上には上がいるってことを分からせてやりたいんです!」


と訴えてきた。

お、おい、ちょっと‥、頼むから頭を上げてくれ‥。


「あいつは、シゲオは、

昔は友達思いのいいやつだったんです‥。

僕らは同じ町で生まれて、

ポケモン使いとして互いに切磋琢磨しながら育った‥。

だけど、あいつは、ポケモンバトルの世界でだんだん強く有名になっていき、

そして、それにつれて、だんだん嫌な性格になっていってしまった。

お世話になった人への感謝も忘れ、最近では、家に帰ることもなくなってしまったんです。

だから、僕は、友達として、

昔のシゲオに戻って欲しい!

そのために、あいつの伸びた鼻を折ってやって欲しいんです!」


サトル君は、さらに、

目にうっすら涙を浮かべながらそう言ってきたのだった。


‥‥‥‥

なんだか‥、事情は全然分からないが‥、

子供にこうまでされてしまうと、

僕も、大人としてちょっと何かしてあげたいと思うようになってきてしまった。


周りの客席のチビっ子からも、


ピカチュウのかたきをとってあげてー!」


リザードンをやっつけてよー!」


という声が聞こえてきた。


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‥‥

‥そこで、仕方なく僕は、

コンギツネの方に向くと、


「‥‥あのさあ‥、

コンギツネ‥、

一応聞くけどね、

君、あのリザードンを倒すこととかってできたりする?」


と尋ねた。

するとコンギツネは、


「え‥?い、いや、無理ですよ!

タチバナさんまで何を言い出すんですか?

あんな、おっかない生き物、相手に出来るわけないじゃないですか!」


と、驚き顔で答えた。

至極、当然の答えだった。

そう言われて僕は、


「‥そっか、そうだよね。

いや、ごめんね、変なこと聞いて‥。」


と言いながら、


「‥‥ただ‥、

もし倒すことができたなら、

こないだ欲しがってた"ヴィトンのバッグ"でも買ってあげようかなと思ったんだけど‥‥。」


と、ボソッと付け加えたのだった。


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‥‥

‥すると、次の瞬間、


コンギツネはもうリングの上に上がっていた。

あまりの速さに、瞬間移動したのかと思った。


そしてコンギツネは、


「サトル君、後は私に任せて!!

ピカチュウのかたきは私がとってあげるわ!!」


と言い放ったのだった。




つづく


#17 コンギツネと謎の生き物③

翌週の土曜日、

僕とコンギツネは、千葉県の幕張メッセにやって来ていた。


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その日、幕張メッセの1階会場では、"東京オートサロン"という車のイベントが行われていた。

様々な自動車メーカーのレーシングカーやカスタムカーが、一堂に会して展示されるイベントであり、

多くの車ファンで賑わっていた。


が、しかし、僕らがここに来た目的は、そのオートサロンではない。

きらびやかに展示されたスーパーカーを横目に見ながら、

僕とコンギツネは、幕張メッセの地下深くの会場へと下りていった。

コンギツネは、途中の売店で買ったアメリカンドッグを頬張っている。


地下会場に入ると、そこには、


ポケモンリーグ 2022』


と書かれた看板がぶら下がっていた。

そう、僕らは、

先週出会ったサトル君という"ポケモン使い"の少年に招待され、ポケモンバトルの大会を観戦しにやって来たのだ。


地下会場の中央には、正方形のリングが設置されていた。

そして、その周囲にぐるっと、数例の観客席が用意されている。

リングは、プロレスのやつみたいな感じだったが、その大きさは、一辺が15メートルくらいあり、結構広い。

会場の雰囲気としては、例えるなら、『グラップラー刃牙』に出てくる地下闘技場みたいだ。


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ただ、リング周囲の客席に座っている観覧客は、

その多くが、小学生くらいの子供とその保護者といった感じであった。


僕は、周りが子供ばかりの中で、

大人2人でポケモンのイベントを観に来ていることに気恥ずかしさを感じながらも、とりあえず席に着いた。

コンギツネはというと、

そんなことは気にする様子もなく、隣りの席に座りながら、2本目のアメリカンドッグの袋を開けようとしていた。


僕らが席に着いてから間もなく、


「それでは、選手の入場です!!」


という、リングアナウンスが聞こえてきた。


そして、


「青コーナー、挑戦者!!

サトールーー!!」


と、選手紹介のアナウンスが響くと、客席から大きな歓声が湧き上がった。

その後、その歓声に迎えられながら、会場の角の入場口から、サトル少年が入ってきたのだった。

その顔には、とても気合いの入ったものが見受けられる。


コンギツネは、


「サトルくーん!頑張ってー!!」


と、口からアメリカンドッグを飛ばしながら声援を送った。

前の席のお客さんが、迷惑そうな顔をした。


サトル君は、それに気がついたようで、こちらに手を振ってくれた。


そして、サトル君がリングに上がると、

続いて、


「赤コーナー、チャンピオン!

シゲーオーー!!」


というリングアナウンスが響いた。

すると、先程よりもさらに大きな歓声が巻き起こった。

そして、サトル君が出てきた方とは反対のすみの入場口から、1人の少年が入ってきたのだった。

その子は、サトル君と同じくらいの歳の男の子に見えた。


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シゲオと呼ばれた少年がリングに上がり、2人は互いに向き合った。

すると、リング上のマイクから2人の会話が聞こえてきた。


「‥シゲオ‥。久しぶりだね。

まさか、チャンピオンがおまえだったとは‥。

いつも僕の一歩先を行っていたおまえだが‥、

今日こそ倒してやる!」


サトル君は、シゲオ君に対しそう言い放ったのだった。

するとシゲオ君は、


「よう、サトル。元気そうだなあ。

大木戸博士のところを出て以来か‥。

おまえがここまで来てくれて嬉しいよ。」


と言ったのだった。


‥なんかよくわからないが、

彼らの会話から察するに、どうやら2人はライバル関係のようだ。


そして、


カーーンッッ!!


とバトル開始のゴングが鳴り響いた。



サトル君は、モンスターボールを取り出すと、


「頼んだぞ!ピカチュウ!!」


と叫びながら、リング中央へ放り投げた。


ボンッッ!


モンスターボールが開き、中からピカチュウが現れる。

ピカチュウは、


「フシューーッッ!」


と言いながら、シゲオ君に向かって臨戦態勢をとった。

先週捕まえたばかりのピカチュウだが、もうすっかりサトル君に従順なようだ。


それを見たシゲオ君は、小さな笑みを浮かべながら、


「おいおい、何だい、そのチビポケモンは?

そんな子ネズミで俺に勝てると本気で思ってるのか‥!?」


と嘲るようにそう言った。

そして、1個のモンスターボールを手に取ると、


「力量の差ってやつを教えてやるぜ!!」


と叫び、ボールを放り投げた。

サイドスローだ。


すると、


ボンッッ!!


と、1体のポケモンが現れた。


そのポケモンは、身長2メートルくらいのトカゲのような生き物だった。

皮膚は燃えるような真っ赤な色をしており、頭には2本の角が生えていた。

また、背中には大きな翼が付いており、長い尻尾の先には"炎"が灯っていた。

‥あれは‥、


リザードンだ!


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リザードン‥。

ゲームにも出てくる"炎"タイプのポケモンである‥

が、実物を見るとすごい迫力だ。

ピカチュウと見比べてみると、

どう考えても、ピカチュウに勝ち目のある相手には思えない。

大きさが違いすぎる。

‥果たして、ピカチュウは大丈夫なんだろうか‥?


だが、サトル君は、

リザードンを見ても怯むことなく、


「先手必勝!行けっ!ピカチュウ

"10万ボルト"だっ!!」


と叫んだ。

すると、ピカチュウは頬に電気を溜め始めた。

そして、そのまま空中に飛び上がると、尻尾の先から一気に電気を放出したのだった。

巨大な稲妻のような電撃が空を走り、


バリバリバリバリッッ!!


と、リザードンに直撃した。


「ンギャアアアアアッッ!!」


リザードンは、苦痛の鳴き声を上げながら、リングに倒れ伏した。


「‥ど、どうだ?やったか‥!?」


サトル君は、今ので勝ったと思ったのか、笑顔を浮かべていた。


しかし、


むくっ


と、リザードンはすぐに起き上がってしまった。

サトル君は、


「な、何!?う、嘘だろ!?

今のが全然効いてないのか‥!?」


と驚愕の表情に変わっていった。


それに対し、シゲオ君は、


「へえー。チビにしてはなかなか強力な技を使うじゃないか。

けどそれでも、リザードンを倒すまでには全然至らなかったみたいだな!」


と不敵に言い放った。

そして、


「今度はこっちの番だぜ!

行け、リザードン

"火炎放射"!!」


と叫んだのだった。


すると、リザードンは口から


ゴオオオオオオッッ!!


と、すごい勢いの炎を吐き出した。

そして、その炎はそのままピカチュウに直撃した。

灼熱の炎がピカチュウの皮膚を焼いていく。


「ピギャアアアアアアッッ!!」


ピカチュウが苦しそうな声を上げた。

残酷な光景を前に、客席の子供達からは、きゃああーっ、と悲鳴が聞こえてきた。


そして、


バタッ


ピカチュウは倒れた。

会場がシーンと静まり返る。

どうやら、あっという間に勝負はついてしまったようだった。


それを見たサトル君は、


「あ、ああっ!ピカチュウっ!

そ、そんな‥!」


と言いながらピカチュウに駆け寄った。そして、倒れていたピカチュウを抱き上げた。

ピカチュウは、全身にひどい火傷を負い、虫の息のように見えた。


サトル君は、


ピカチュウ‥、そんな‥。

ピカチュウ‥、しっかりしろ‥!」


と言いながら、涙を浮かべていた。


シゲオ君は、


「どうやら、俺に勝つのは10年早かったみたいだなっ!!

アハハハハハハハッッ!!」


と勝ち誇ったように笑ったのだった。




つづく


#16 コンギツネと謎の生き物②

川岸の土手をウォーキングしている途中、僕とコンギツネは、

ポケットモンスターの"ピカチュウ"に遭遇した。


コンギツネが不用意に近づいたことで、身の危険を感じたのか、

ピカチュウは、僕らに対して臨戦態勢をとっていた。

全身の毛を逆立て、牙を剥き、


フーッッ!


と、うなり声を上げている。

頬の辺りには、バチバチと電気を溜めているのが見てとれた。

いつでも、こちらに対し放電攻撃をできるぞ、と言わんばかりだ


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大きさは猫ぐらいであり、とても可愛らしい見た目をした生き物ではあるが、

その実、性格は極めて攻撃的なようだ


これは、

下手に刺激をすると非常に危険だ、

と僕は思った。


そこで、僕はコンギツネに、


「‥こいつ、結構危険な生き物みたいだ。

どうにか刺激しないように、ゆっくりこの場から離れよう。」


と小声で提案した。

それを聞いて、コンギツネは小さく頷いた。


そして、僕らは、ピカチュウを驚かせないように、ゆっくりと後退りをし始めた。

ピカチュウは、まだこちらに対して、威嚇するような体勢をとっていた。


‥と、そのときだった。


ヒュルルルルルルッ!!


と、どこからか、

直径10cmくらいの、丸い"ボール"のような物が、

ピカチュウ目掛け飛んできた。

ピカチュウは、僕らに気を取られていたためか、それに気付くことが出来なかったようだ。

そのボールのような物は、そのまま


パコッッ!!


と、ピカチュウの頭に命中したのだった。


ピカチュウは一瞬びっくりした顔をした。


が、

次の瞬間、


バシュウウウウッッ!!


と、なんと、そのボールの中へ吸い込まれていってしまった。


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‥‥‥

ま、まさか‥、今のはあの‥、ゲームにも出てくる

"モンスターボール"か‥!?

ポケモンを捕まえるためのアイテムの‥。

だけど、一体どこから‥!?


僕は、ボールが飛んで来た方向に目をやった。

すると、そこにキャップをかぶった小学生ぐらいの男の子が立っていた。


その男の子は、


「やったぜ!ピカチュウ、ゲットだ!」


と言いながら、こちらに近づいてきたのだった。



男の子は、僕とコンギツネの存在に気がつくと、


「‥あれ?‥お兄さんたち‥

お兄さんたちも、もしかして、このピカチュウを捕まえようとしてたの?」


と、聞いてきた。

僕は、


「‥え‥?い、いや‥、そんなことはないけど‥‥。」


と、とりあえず答えた。

すると、その子は、


「そうですか。そしたら、このピカチュウは僕がもらっちゃいますね!」


と言って、ピカチュウが入っているモンスターボールを拾い上げた。

そして、


「僕の名前は、"サトル"。

僕は、ポケモンを全種類捕まえて、"ポケモンマスター"になることを目指しているんです!」


と言ったのだった。

‥‥‥

‥なんだ、この子は‥。


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サトルと名乗ったその男の子は、ポケットの中から、

表面にカメラの付いたスマホのような機械を取り出した。

サトル君は、


「これは、"ポケモン図鑑"です。このポケモン図鑑の中には、様々なポケモンのデータが入っているんです。」


と言いながら、その機械のカメラを、モンスターボールの中のピカチュウに向けた。


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すると、機械の画面には、


ピカチュウ

ねずみポケモン

高さ:0.4メートル

タイプ:電気

Lv.:3

技:なきごえ、でんきショック

特徴:頬に電気をつくるための電気袋をもつ』


というデータが表示された。

‥すごい機械だ。


そのデータを見たサトル君は、


「レベル3か‥。ここから、まだまだ強く育てていかなきゃいけないな。」


と、つぶやいた。


それから、僕らの方へ向いた後、


「‥それにしても‥、

お兄さんもずいぶん強そうなポケモンを持っていますね!」


と、

"コンギツネの方を指差しながら"言ったのであった。


‥‥‥

‥ん?


僕は、突然何を言うんだろうと思いながらも、


「‥え?‥いや‥、何言ってるんだ?

ポケモンって‥、

このお姉さんのことを言ってんのかい?

失礼なことを言うなあ、君は。」


と、笑いながら答えた。

僕は、この子は冗談で言っているのだと思った。

しかし、サトル君は首を振りつつ、


「いやいや、僕の目は誤魔化せませんよ。

そこのお姉さんが人間じゃないことは、一目見れば分かります。」


と言いきったのだった‥。


‥‥‥

‥え?‥嘘だろ。

コンギツネが人間ではないことを、あっさりと見抜いてしまったのか‥。

ちゃんと、キツネ耳も帽子で隠しているのに‥。

この少年、ただものじゃないぞ‥!


僕はそう思った。

コンギツネも、びっくりした顔をしていた。


さらに、サトル君は、


「だけど、見たことのない種類のポケモンだなあ‥。すみません、ちょっといいですか?」


と言って、ポケモン図鑑のカメラをコンギツネの方に向けてきた。

すると、ポケモン図鑑の画面に、


『コンギツネ

???ポケモン

高さ:1.6メートル

タイプ:悪

Lv.:????

技:????

特徴:詳細なデータなし。どうやら新種のポケモンのようだ。』


と、表示されたのだった。

それを見たサトル君は、


「すごいな、ポケモン図鑑にもデータが載ってないなんて‥。

ずいぶん、珍しいポケモンなんですね。」


と言ってきた。


‥‥‥

いや‥、だから、

たしかにコンギツネは

人間ではないけども‥、別にポケモンでもないんだが‥‥、


と、僕は言おうと思ったが、

でも、じゃあ何だ?と聞かれたら、説明するのも面倒なので、特に何も言わなかった。


コンギツネは、


「誰のタイプが"悪"ですか!!」


と、プンプン怒っていた。



それから、サトル君は別れ際に、


「そうだ、実は来週の土曜日、

ポケモンバトルの大会があるんです。

それで、僕、このピカチュウの腕試しも兼ねて参加してみようと思っているんですけど、

良かったら、お兄さん達も見に来てください!」


と言って、1枚のチラシを渡してきた。

そのチラシには、


ポケモンリーグ 2022  in 幕張メッセ


と書いてあった。




つづく

#15 コンギツネと謎の生き物

土曜日の昼、僕とコンギツネは、

近所の川沿いの土手に、ウォーキングをしに来ていた。

お正月でなまった体を動かすためだ。


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冬の川岸には冷たい風が吹きつけ、初めはとても寒かったのだが、

歩いているうちに、だんだんポカポカ温かくなってくる。


コンギツネは、


「こうやって体を動かすのも、気持ちがいいものですねえ!」


と、ポジティブなことを言いながら、てくてく歩いている。

確かに、たまにする運動はいいものだ。

僕は、とても爽やかな気持ちになっていた。


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と、そんな時だった。近くの草むらの中から、


ガサガサッ


と、何やら音がした。

‥?‥なんだろう‥。

何かがいるのだろうか?


コンギツネは、


「なんでしょう?猫ですかね?」


と言いながら、草むらの中を覗き込もうと近づいた。

すると、


ガサッ


と、中から何か"生き物"が飛び出してきたのだった。



その生き物は、大きさといい、姿形といい、

一見、猫かなといった感じの動物だった。

しかし、猫よりはちょっと耳が長く尖っている感じであった。

また、体毛はとてもあざやかな黄色をしており、背中には茶色の縞模様が入っていた。

そして、顔のちょうど頬の辺りの毛だけ、赤っぽい色をしていた。

そいつは、そのクリクリした目で、こちらの方をじっと見つめていた。


「‥‥ん‥?

‥あれ‥、これって‥、」


と、僕が口を開こうとした瞬間、


「やだー、何この子、

すごい、かわいいー!」


と言いながら、コンギツネは目をキラキラさせ、その生き物に近づいていった。

そして、そいつの頭を撫でようと手を伸ばしたのだった。


すると、次の瞬間、


バチィッッ!!


と大きな音がした。そして、


「痛っ!!」


と言って、コンギツネは手を引っ込めた。


「‥や、やだ‥、何今の‥?静電気‥?」


コンギツネは、そう言いながら痛そうに手をさすっている。

どうやら、手に"電気"をくらったようだった。


そいつは、


「フーッッ!!」


と言いながら、毛を逆立てこちらを威嚇してきている。


「や、やだなあ、別にいじめようとしたわけじゃないですよお‥。」


コンギツネは、その生き物に嫌われたと思ったのか、ショックを受けているようだった。


だが、僕は、今の一連の流れを見て確信した。


「間違いない‥。こいつは‥、」


そして、僕はそいつを指差しながら言った。


「"ピカチュウ"だ!」


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「え?

ピ、ピカチュウ‥?な、なんですか、それ‥?」


コンギツネは、ピカチュウを知らないらしい。


"ピカチュウ"。

僕が、子供の頃に発売されたゲーム、

ポケットモンスター』の中に出てくる、電気系ポケモンだ。

アニメでも人気者になったが‥‥、


‥まさか実在していたとは‥。




つづく