#17 コンギツネと謎の生き物③

翌週の土曜日、

僕とコンギツネは、千葉県の幕張メッセにやって来ていた。


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その日、幕張メッセの1階会場では、"東京オートサロン"という車のイベントが行われていた。

様々な自動車メーカーのレーシングカーやカスタムカーが、一堂に会して展示されるイベントであり、

多くの車ファンで賑わっていた。


が、しかし、僕らがここに来た目的は、そのオートサロンではない。

きらびやかに展示されたスーパーカーを横目に見ながら、

僕とコンギツネは、幕張メッセの地下深くの会場へと下りていった。

コンギツネは、途中の売店で買ったアメリカンドッグを頬張っている。


地下会場に入ると、そこには、


ポケモンリーグ 2022』


と書かれた看板がぶら下がっていた。

そう、僕らは、

先週出会ったサトル君という"ポケモン使い"の少年に招待され、ポケモンバトルの大会を観戦しにやって来たのだ。


地下会場の中央には、正方形のリングが設置されていた。

そして、その周囲にぐるっと、数例の観客席が用意されている。

リングは、プロレスのやつみたいな感じだったが、その大きさは、一辺が15メートルくらいあり、結構広い。

会場の雰囲気としては、例えるなら、『グラップラー刃牙』に出てくる地下闘技場みたいだ。


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ただ、リング周囲の客席に座っている観覧客は、

その多くが、小学生くらいの子供とその保護者といった感じであった。


僕は、周りが子供ばかりの中で、

大人2人でポケモンのイベントを観に来ていることに気恥ずかしさを感じながらも、とりあえず席に着いた。

コンギツネはというと、

そんなことは気にする様子もなく、隣りの席に座りながら、2本目のアメリカンドッグの袋を開けようとしていた。


僕らが席に着いてから間もなく、


「それでは、選手の入場です!!」


という、リングアナウンスが聞こえてきた。


そして、


「青コーナー、挑戦者!!

サトールーー!!」


と、選手紹介のアナウンスが響くと、客席から大きな歓声が湧き上がった。

その後、その歓声に迎えられながら、会場の角の入場口から、サトル少年が入ってきたのだった。

その顔には、とても気合いの入ったものが見受けられる。


コンギツネは、


「サトルくーん!頑張ってー!!」


と、口からアメリカンドッグを飛ばしながら声援を送った。

前の席のお客さんが、迷惑そうな顔をした。


サトル君は、それに気がついたようで、こちらに手を振ってくれた。


そして、サトル君がリングに上がると、

続いて、


「赤コーナー、チャンピオン!

シゲーオーー!!」


というリングアナウンスが響いた。

すると、先程よりもさらに大きな歓声が巻き起こった。

そして、サトル君が出てきた方とは反対のすみの入場口から、1人の少年が入ってきたのだった。

その子は、サトル君と同じくらいの歳の男の子に見えた。


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シゲオと呼ばれた少年がリングに上がり、2人は互いに向き合った。

すると、リング上のマイクから2人の会話が聞こえてきた。


「‥シゲオ‥。久しぶりだね。

まさか、チャンピオンがおまえだったとは‥。

いつも僕の一歩先を行っていたおまえだが‥、

今日こそ倒してやる!」


サトル君は、シゲオ君に対しそう言い放ったのだった。

するとシゲオ君は、


「よう、サトル。元気そうだなあ。

大木戸博士のところを出て以来か‥。

おまえがここまで来てくれて嬉しいよ。」


と言ったのだった。


‥なんかよくわからないが、

彼らの会話から察するに、どうやら2人はライバル関係のようだ。


そして、


カーーンッッ!!


とバトル開始のゴングが鳴り響いた。



サトル君は、モンスターボールを取り出すと、


「頼んだぞ!ピカチュウ!!」


と叫びながら、リング中央へ放り投げた。


ボンッッ!


モンスターボールが開き、中からピカチュウが現れる。

ピカチュウは、


「フシューーッッ!」


と言いながら、シゲオ君に向かって臨戦態勢をとった。

先週捕まえたばかりのピカチュウだが、もうすっかりサトル君に従順なようだ。


それを見たシゲオ君は、小さな笑みを浮かべながら、


「おいおい、何だい、そのチビポケモンは?

そんな子ネズミで俺に勝てると本気で思ってるのか‥!?」


と嘲るようにそう言った。

そして、1個のモンスターボールを手に取ると、


「力量の差ってやつを教えてやるぜ!!」


と叫び、ボールを放り投げた。

サイドスローだ。


すると、


ボンッッ!!


と、1体のポケモンが現れた。


そのポケモンは、身長2メートルくらいのトカゲのような生き物だった。

皮膚は燃えるような真っ赤な色をしており、頭には2本の角が生えていた。

また、背中には大きな翼が付いており、長い尻尾の先には"炎"が灯っていた。

‥あれは‥、


リザードンだ!


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リザードン‥。

ゲームにも出てくる"炎"タイプのポケモンである‥

が、実物を見るとすごい迫力だ。

ピカチュウと見比べてみると、

どう考えても、ピカチュウに勝ち目のある相手には思えない。

大きさが違いすぎる。

‥果たして、ピカチュウは大丈夫なんだろうか‥?


だが、サトル君は、

リザードンを見ても怯むことなく、


「先手必勝!行けっ!ピカチュウ

"10万ボルト"だっ!!」


と叫んだ。

すると、ピカチュウは頬に電気を溜め始めた。

そして、そのまま空中に飛び上がると、尻尾の先から一気に電気を放出したのだった。

巨大な稲妻のような電撃が空を走り、


バリバリバリバリッッ!!


と、リザードンに直撃した。


「ンギャアアアアアッッ!!」


リザードンは、苦痛の鳴き声を上げながら、リングに倒れ伏した。


「‥ど、どうだ?やったか‥!?」


サトル君は、今ので勝ったと思ったのか、笑顔を浮かべていた。


しかし、


むくっ


と、リザードンはすぐに起き上がってしまった。

サトル君は、


「な、何!?う、嘘だろ!?

今のが全然効いてないのか‥!?」


と驚愕の表情に変わっていった。


それに対し、シゲオ君は、


「へえー。チビにしてはなかなか強力な技を使うじゃないか。

けどそれでも、リザードンを倒すまでには全然至らなかったみたいだな!」


と不敵に言い放った。

そして、


「今度はこっちの番だぜ!

行け、リザードン

"火炎放射"!!」


と叫んだのだった。


すると、リザードンは口から


ゴオオオオオオッッ!!


と、すごい勢いの炎を吐き出した。

そして、その炎はそのままピカチュウに直撃した。

灼熱の炎がピカチュウの皮膚を焼いていく。


「ピギャアアアアアアッッ!!」


ピカチュウが苦しそうな声を上げた。

残酷な光景を前に、客席の子供達からは、きゃああーっ、と悲鳴が聞こえてきた。


そして、


バタッ


ピカチュウは倒れた。

会場がシーンと静まり返る。

どうやら、あっという間に勝負はついてしまったようだった。


それを見たサトル君は、


「あ、ああっ!ピカチュウっ!

そ、そんな‥!」


と言いながらピカチュウに駆け寄った。そして、倒れていたピカチュウを抱き上げた。

ピカチュウは、全身にひどい火傷を負い、虫の息のように見えた。


サトル君は、


ピカチュウ‥、そんな‥。

ピカチュウ‥、しっかりしろ‥!」


と言いながら、涙を浮かべていた。


シゲオ君は、


「どうやら、俺に勝つのは10年早かったみたいだなっ!!

アハハハハハハハッッ!!」


と勝ち誇ったように笑ったのだった。




つづく