#4 コンギツネとターミネーター

その日の夜、
仕事を終え家に帰った僕は、コンギツネと一緒にテレビを見ていた。

すると、突然だった。

ヴオンッ!!

部屋の中央に、直径2メートルほどの黒い球体が現れた。

バチバチバチッ!!

球体の周囲には、スパークのようなものが飛び交っている。

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「な、何ですかこれはっ!?」

コンギツネは驚き、後ずさりしながら僕に聞いた。
そんなこと聞かれても、僕も分かるわけがない。

すると、徐々に球体は消えていき、中から
"全裸の男"が
うずくまったような体勢で出現した。

キツネに引き続き、またウチにおかしなのが‥

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その男は、すくっと立ち上がり、僕たちの方を見た。
そいつは、一見大柄な白人男性のようだった、
が、頭の一部から、何やら金属のようなものが見えていた。
‥‥そして、一応女性(コンギツネ)もいるのに、完全にチンチン丸出しだった。



「な、何だおまえは!?」

僕は聞いた。

「私はターミネーター。2129年の未来からタイムスリップしてやって来た、
サイボーグだ。」

その男は口を開いた。

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「サ、サイボーグ‥?」

何を言っているんだ‥
そんなSF映画みたいなことが‥
と僕は困惑した。

「タイムスリップなんて‥
そんな非現実的な話、とても信じられません!」

コンギツネも驚いている。

‥‥
ただ、非現実的という意味では
君も十分負けてないが‥

ターミネーターは、
「私は、未来からこの時代へ、
サラ・コナーという女性を保護するために来た。」
と言った。

‥サラ・コナー?
‥外国人?
それから、彼は、この時代へやって来た経緯を話し始めた。



‥‥今よりはるか未来、2129年、
人類は機械との戦争を余儀なくされていた。

スカイネットと呼ばれる米軍のAIシステムが、
突如暴走を始め、
人間に対しての攻撃を開始したのだ。

スカイネットは、
米軍の無人爆撃機や、暗殺用ドローン兵器を操り、人類の多くを死に至らしめた。

生き残った人々も、
ロボットによる虐殺に怯えながら、
隠れ、逃げ惑う生活を強いられていた。

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そんな絶望的な日々が続いていたが、
ある日、人類に救世主が現れた。

彼の名前はジョン・コナー。
彼は、残った人類をまとめ上げ、抵抗軍を組織した。
そして、スカイネットに対して戦争を仕掛けたのだった。

戦争は長きに及んだが、
ジョンは、ついにスカイネットの中枢に潜入し、システムを停止させることに成功した。

人類の勝利は目前だった。
が、スカイネットは、
完全に停止する前に、
1体のターミネーターを過去に送り込んだ。

その目的は、まだジョンが生まれる前の、
2084年へ行き、
ジョンの母親であるサラ・コナーを抹殺することだったのだ‥‥


「そして、人類側もそれに対抗するため、
サラを守るようプログラムされたターミネーターをこの2084年へ送り込んだ。
それが、私だ。」

ターミネーターは、フルチンのまま話し続けている。

「今から、私は、
この時代のサラ・コナーを探し、保護しなければならない。
人類の未来のため、君たちにも協力して欲しい。」

「‥あの、ちょっと1つだけいいかな‥?」

僕は、ずっと黙って聞いていたが、
いよいよ我慢出来ずに口を挟んだ。

「何だ?」

ターミネーターがこっちを見て聞いてきた。
僕は、これ言っていいものかと悩みながらも、
でも、しょうがないしなと思いながら言った。

「‥あの、今は、2084年じゃなくて、
2021年なんだけど‥。」



「‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥え‥?」



ターミネーターはびっくりした顔をしている。

「‥‥ここは‥、2084年のロサンゼルスじゃないのか‥?」

「ここは、2021年の東京ですよ!」

コンギツネが答えた。



「‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥間違えた‥‥、
‥‥‥‥‥
‥‥どうしよう‥‥‥‥。」


ターミネーターは、困ったような目でこっちを見てきた。

‥‥‥知らんがな‥。

#3 コンギツネと朝食を

朝。

トースト2枚と目玉焼き2つ。
僕は"2人分"の朝食を作っている。

僕の家には、先週から1匹の居候がいる。

彼女の名前は、コンギツネ。
もう1000年以上も前から生きている、キツネの妖怪だそうだ。
そして、平安時代からずっと封印されていたのを、僕が解放してしまったらしい。
以来、ずっとウチに住み着いているのだ。

彼女は、居間のすみに勝手にハンモックを設置し、今もまだすやすやと眠っている。

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そもそも、最初は、
助けてもらった恩返しをするとか言っていたのだが、
今のところ、恩返しらしきことは、特に何ひとつされてはいない。

タチバナさぁーん。

ごはんまだぁ?」

彼女が、目をこすりながら起きてきた。

「ああ、ちょっと待ってね。
今パン焼いてるから。」

‥‥‥

‥というか、恩返しされるどころか、
なぜ、僕は当たり前のように、こいつの朝食を作っているんだ‥!?

僕は、ハッとして、
彼女に向き直り言った。

「てゆうか、あのさあ。
前から言おうと思ってたんだけどね、

こないだ、僕に恩返しするとか言ってたけど、
別に、そんなの全然気にしなくていいんだよ。

僕も、別に君を助けようと思ってたわけじゃなくて、
たまたま買ったカップ麺に、君が入ってただけなんだ。

だから、別に、無理にここにいなくてもね、
全然好きなとこ行ってくれてもいいんだよ。」

僕は、なるべく遠回しに、出て行くよう促そうと
したつもりだった。

しかし、

「あ、いえ、そうはいきませんよ!
受けた恩は必ず返しなさい、というのが先祖代々の教えなのです。
このまま、恩返しもせずに去ったりしたら、
ご先祖様に顔向け出来ないのです。
キツネは、その辺り義理堅いのですよ!」

と、まっすぐな目で、きっぱりと返された。
そして、フライパンを覗き込みながら、

「あ、ところで、
私、目玉焼きの卵は2つでお願いします。」

と付け加えてきた。

‥‥
僕は、ここ最近で一番イラッとした‥。


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2人で朝食を食べ終えたあと、僕は会社に行く準備をしていた。

すると、

"カサカサっ"

部屋のすみで、何か黒いものが動いた。

げっ!
ゴキブリだ!

「うわっ、やだなあ。
ゴキジェットどこ置いたっけ‥」

僕が、殺虫剤を探していると、

「どしたんですか?」

とコンギツネが聞いてきた。

「ああ、見てよ。ほら、あそこ。
ゴキブリが出たんだ。」

僕が指差すと、

タチバナさんは、あの昆虫が嫌いなんですか?」

と、言って不思議そうな顔をしてきた。

「いや、僕はっていうか、
現代人はみんなゴキブリが苦手なものなんだよ。」

僕は、そう言って説明した。
すると、

「なるほど、わかりました。
これは恩返しのチャンス到来ですね!

では、ここは私に任せて下がってください!」

と言って前に進み出た。

「え?どうする気‥」

僕は尋ねたが、
コンギツネは聞かずに、

「はあああああっ!!」

などと言いながら、
何やら"気"のようなものを溜め始めた。

空気が震える。

そして、そのまま、

バッ

と右手を突き出し、


「くらいなさいっ!!

"メラゾーマ"っっ!!」


と叫びながら、

右手の先から、
"巨大な火の球"を発射したのだった。


メラ系最強呪文の直撃を受けた哀れな昆虫は、一瞬で炭に変わった‥。

‥そして、そのまま、
巨大な火の球は、部屋の壁に大穴を開けた‥。


‥‥賃貸なのに‥。

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まだ、部屋中に、物が焦げるにおいが漂っている中、コンギツネは、
誇らしげにこちらに向きながら、

「さあ、これでもう安心ですよ!
これからも、何か嫌いな虫が出たときは、私に任してくださいねっ!」

と言った。
それはそれは、まぶしいくらいに、
何の悪気もない笑顔だった。

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‥僕は、アパートの壁に空いた大穴を、
大家にどう説明したものか
と考えていた‥。


つづく

#2 コンギツネの過去

「あれはもう、今から1000年以上昔のこと。日本が平安時代と呼ばれていた頃のことでした。

当時の私は''妖狐''という悪いキツネの妖怪でした。

強力な妖術を操ることのできた私は、
当時の人間達に対して、極悪非道な悪行の数々を繰り返していたのです。


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都を焼き払ったり、
田畑を荒らしたり、
むかつく公家をなぶり殺しにしたり、
幼い男児をつかまえて性的なイタズラを
したりしていました。

それはそれはもう、平安の人々を恐怖のどん底に陥れていたのです。

しかし、そんなことを繰り返していたある日、
私の悪行を見かねた1人の武闘家が、私の前に現れました。

そして、その男はこう言い放ったのです。


"おのれ、憎くき妖狐め!
貴様の極悪非道の所業の数々、もはや許すまじ!

我が秘術をもって永遠に封じ込めてくれる!
人々の怒り、恨みを思い知るがいい!

くらえっ!!

魔封波ーーーっっ!!"

そう叫ぶと、武闘家は気をためて、私に向け放ちました。

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そして、気がつくと、私は赤いきつね️の中に封じ込められてしまっていました。

その武闘家は、自分の生命と引き換えに、
"魔封波"を使って私を封印することに成功したのです。」

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‥‥
平安時代に‥‥
‥なぜ赤いきつね‥‥?

僕は、コンギツネの支離滅裂な話にツッコミを入れようとした。
が、そしたら彼女は不機嫌そうな顔をしたので途中でやめた。

「それから、1000年以上の長い間、私はずっと閉じ込められていた訳ですが、
さっきあなたが蓋を開けてくれたおかげで、再び外の世界に出ることができたのです。」

「‥はあ‥まあ、なんかよくわかんないけど‥、
とりあえず今の話からすると、僕はとんでもなくヤバいやつを解き放っちゃったってことかい?」

僕は半信半疑ながらも尋ねた。

するとコンギツネは、首を振りながら言った。

「あ、いえ、私も1000年以上も封印されていた間に、それまでの行いを反省しました。
そう、今思えば、あの頃は私も若くてヤンチャだったのです。」

「はあ‥。」

''ヤンチャだった''で都を焼き払われた平安の人達の気持ちを考えると、あまりにも気の毒だと思った。

「たとえば、元ヤンキーのギャルとかも、
年月を経たら、立派な社会人になったり、子を持つ母になったりするものじゃないですか。

同じように、私も、
これからは過去の行いに対する償いもかねて、何か人や社会の役に立つような活動をしていこうと考えているのです。」

コンギツネは目をキラキラさせながら言った。

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「‥はあ‥、そうなんだ‥、
まあ、それはいい事だと思うけどさ。」

僕は、そう言いながら、
正直どうでもいいから、
早く出てってくれないかなと思っていた。
明日も仕事あるし‥。早く寝たい‥。

「というわけで、まずは手始めに、
封印を解いてくれたあなたに何か恩返しをしなければいけませんね。
なので、しばらくあなたのお家にご厄介になることにします!」




‥‥‥‥



‥‥‥‥‥‥ん!?



つづく

#1 コンギツネ現る

こんにちは
僕の名前はタチバナ

33歳独身。東京都足立区在住。

都内の中小企業に勤める普通のサラリーマン。

これは僕の人生に巻き起こった数奇な出来事の記録である。



ある日の晩、僕はいつものように仕事を終えて、
勤め先の会社から一人暮らしをしているアパートに帰った。

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そして、お風呂に入り、部屋着に着替えたあと、
お湯を沸かし、夜食のマルチャンの赤いきつね️️を作って食べようとしていた。

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すると突然だった。

"ぶしゅーーーーっっ!!"

赤いきつね️️から白いケムリが吹き出し始めた。

いきなりの謎の現象に僕はびっくりしてのけぞった。

「な、なんだこれ!?」

僕が驚いていると、そのケムリは徐々にひと固まりに集まり始めた。
さらに、段々と、ムクムクと、人の形になっていったのだった。

そして、

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「呼ばれて飛び出てココココーーーンッ!!」

などと叫びながら、ケムリの中からそいつが現れた。


「ななな、何なんだおまえはっ!?」

僕は、目の前の光景に驚きながら叫んだ。

「あら、こんばんはっ。
私は、"コンギツネ"という者ですぅ。」

「コ、コンギツネ!?」

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‥"コンギツネ"
と名乗ったそいつは、一見すると普通の人間の女性のようだった。
しかし、頭にはキツネの耳のような物が、そしてお尻の辺りには、キツネのしっぽのような物が付いていた。
そいつは、びっくりして尻もちをついている僕を見下ろして言った。

「私を封印から解いてくれたのはあなたですね。」

"封印"?

「な何?
ふ、封印って‥!?」

僕は警戒しながら尋ねた。

「ふふふ、そうですねえ。
話せば長くなることなんですがぁ‥

そう言うと、そいつは自分のことを話し始めた。

つづく