#13 コンギツネとお正月
2022年1月1日(土)の元日の朝、
僕はいつものように、コンギツネより早く起きた。
コンギツネは、4日前の12月28日に高熱を出し倒れたが、
翌日には復活し、その後は元気に生活していた。
そして、昨日の大みそかの夜は、
2人で年越しそばを食べながら紅白歌合戦を観た。
それからその後、
元気良くカウントダウンをしながら新年を迎え、深夜1時くらいに就寝した。
先に起きた僕は、朝食にお雑煮を作っていた。電子レンジでお餅を柔らかくしたあと、鍋の中に入れる。
部屋中にお味噌の良い香りが漂った。
大体いつもこの辺りで、食い意地の張ったコンギツネが起き出してくるのだ。
‥‥‥‥‥
‥しかし今日は、一向に起きて来る様子が無かった。
僕は、コンギツネの寝ているハンモックのところへ行った。そして、
「ちょっと、いつまで寝てんのさ?
お雑煮作ったから食べようよ!」
と言いながら、コンギツネの体を揺さぶった。すると、
ドサッ
コンギツネがハンモックから落下した。
「あっ‥!ご、ごめん、大丈夫!?」
僕は慌てて謝りながら、助け起こそうとした。しかし、コンギツネは、だらんとしてまったく動かなかった‥。
‥‥‥
‥‥僕は、
‥え?‥どういうこと‥、
と思いながら、コンギツネの顔を除き込んだ。
‥すると、その顔は青白く、まったく生気が無かった。そして、口からは血を流していた。
‥‥
‥う、嘘だろ?
‥まさか‥し、死んでる‥!?
僕は、あまりに突然の出来事に思考が追いつかず、腰を抜かしてしまった。
‥と、そのときだった。
テッテテー!
という効果音が鳴り響いた。
そして、家のドアから、
「どっきり!」とひらがなで書かれた看板を持ったフォックス君が入ってきた。
なんなんだ?
その直後、倒れていたコンギツネがむくっと起き上がった。
生きている。
そして、
「はいー、大成功!
どうでした?
私の、謹賀新年ドッキリ!楽しんでもらえましたか?」
と、楽しそうに言ったのだった。
僕が、
「‥‥
‥ああ!?なんだそりゃ!?」
と、イラッとしながら言うと、コンギツネは、青白い化粧と血のりを落としながら、
「いやいや、すみません、すみません。
どうやら、私の迫真の演技でかなり驚かせてしまったみたいですね!」
と言い、きゃはははと笑った。
僕は、新年早々、何しょうもないことをしているんだ、と呆れかえった。
それから、フォックス君の方をチラッと見ると、
こちらの方は全然楽しくなさそうな顔をしていた。
もう、姉に"やらされてる"感まんまんだった。
その後、僕ら3人はお雑煮を食べたあと、近所の神社に初詣に向かった。
そんなに有名な神社ではなかったが、やはり元日なので、結構混雑していた。
コンギツネは、いつものようにキツネの耳を隠すため帽子を被った。フォックス君にもニット帽を被ってもらった。
行列に並び、参拝を済ませてあと、
コンギツネは、神社の敷地内の一画に人だかりが出来ているのを見つけ、
「あれは、何ですか?」
と、指を差しながら聞いてきた。
そこには、たくさんの"文字が書かれた木の板"が吊るされていた。
僕は、
「ああ、あれは絵馬だよ。
ああやって、願い事を木の板に書いたものを吊るして、神様に祈願するんだ。」
と説明した。
それを聞いたコンギツネは、
「面白そう!私もやりたいです!」
と言ってきた。
そして、それを聞いたフォックス君も、
「あ、あの、僕も願い事書きたいです。」
と言ったのだった。
そこで、僕は神社の売店で絵馬を2枚購入し、2人に渡した。
2人はそれを受け取ると、絵馬を吊るしてある場所の側に設置されたテーブルで、
なにやら、とても一生懸命に、願い事をマジックで書き込んでいた。
僕はそんな2人を見て、
こういう、
真剣に神様に願い事をしたりするような、純粋な気持ちがあるのはいいことだなあ、
と思った。
僕がそんなことを考えているうちに、
2人は、願い事を書き込んだ絵馬を、
吊るし終えたようだった。
僕は、コンギツネが一体どんな願い事をしたのだろうと、
コンギツネが吊るした絵馬を見てみた。
すると、
と、書かれていた‥。
僕は、そのクソみたいな願い事が書かれた絵馬に、ただただ引いた。
新年早々、神社になんちゅうもんを吊るしとるんや。
あ、そうだ。
フォックス君。
彼ならきっと、子供らしい、かわいい願い事を書いているに違いない。
僕はそう思い、フォックス君の絵馬が吊るしてある方を見た。
すると、
‥‥‥
‥僕はなんだか、すごいがっかりした。
と、同時に、やはりこいつらは姉弟なんだなと思った。
そうして、初詣を終えた僕達は、神社をあとにし、うちに帰った。
その後は、家で人生ゲームなどをしながらまったり過ごした。
今晩の夕飯はすき焼きの予定だ。
僕は、平和な三が日を過ごしながら、
2022年も良い年になりますように、
と願った。
つづく