#10 コンギツネとメリークリスマス

12月19日(日)の夜、

僕はコンギツネと一緒に、テレビで、

"M1グランプリ"の決勝を見ていた。


2021年のM1は、"錦鯉"というコンビが優勝した。

この"錦鯉"は、ボケの方の人がなんと50歳にもなる、非常に高齢の漫才コンビであり、

最年長での優勝者だそうだ。


僕は、いくつになっても夢をあきらめず、

ついに栄冠をつかみ取ったその姿に、

とても感動していた。


コンギツネも、


「よかったなあ‥、

あんたら、ホンマよかったなあ‥。」


と、何故か関西弁で言いながら、

涙ぐんでいた。

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そんな時だった。

隣の寝室で、


ガタガタッ


と大きな音がした。


な、なんだ?

また何かが、うちにやって来たのか?


僕は、警戒しながら、

そろそろと隣の部屋を見に行こうとした。

コンギツネも、


「何でしょう、今の音‥?」


と言いながら、後ろから付いてきている。


僕が、寝室の中を覗き込むと、また、


ガタガタッ


と音がした。窓の方からだった。


僕は、


パッ


と寝室のあかりを点け、窓の方を見た。

すると、

窓の外に、

"謎の人影"

が映っていたのだった。


そいつは、窓の外を壁伝いに移動しているようだった。

ここアパートの3階だぞ。

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「な、なんなんだ!?」


僕は、驚きと恐怖で、後退った。

が、コンギツネは、さっと走り出すと、


「怪しいやつっ!!

さては泥棒ですねっ!!」


と言いながら、ガラッと窓を開けた。

そして、窓の外にいた"謎の人物"に向け、素早く

"メラゾーマ"を発射したのだった。


「ぎゃあああああっ!!」


巨大火の玉の直撃を受けた謎の人物は、

アパートの外の地面に、真っ逆さまに落下していった。


‥たとえ泥棒だとしても、そこまでしなくても‥。


僕は、死んでいないことを祈りながら、

アパートの外へ様子を見に行った。


地面に落ちたその人物は、プスプスと黒い煙を立て、倒れていた。

生きているだろうか‥。


「ゔ、ゔううう‥。」


その人は、苦しそうなうなり声を上げながら、

もぞもぞと動いていた。


よかった。一命は取りとめたみたいだ。


「あ、あの、

すみません、大丈夫ですか?」


僕は、その人を助け起こそうと近づいた。

が、そのとき、その人の格好を初めてまじまじと見て、ギョッとした。


その人は、

いわゆる"サンタクロース"の格好をしていたのだ。

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僕は、その

"サンタクロースの格好をした人物"を、

家の中に担ぎ入れて、ソファに寝かせた。


その人は、服装もさることながら、

その人自身も、真っ白な髭をたくわえ、ぼってりと太った、高齢の白人男性であり、

まさにサンタクロースといった風体の人物だった。


「う、ううっ、痛てててて‥。」


その人は、苦しそうに声を上げた。


「あ、あの、すみませんでした‥。

無茶なことして‥。」


僕はとりあえず謝った。


「‥あ、ああ、いや、いいんだよ。

あんな窓の外でガタガタやってたら、誰だって怪しく思うのは当然だ‥。」


その人は、弱々しい笑顔を作りながら、ややカタコトの日本語でそう言った。


「というか、そもそも、あんな所で何をしていたんですか?

うちに泥棒に入ろうとしていたんじゃないんですか?」


今度は、コンギツネが聞いた。

まだ訝しげな目で見ている。

その人はゆっくりと起き上がりながら、


「‥いや、君達には信じてもらえないかもしれないが‥。」


と、前置きしてから、


「‥私は、本物の

"サンタクロース"

なんだよ。」


と答えたのだった。



それから、そのサンタクロースは、

自分が、"東京都足立区"担当のサンタのひとりであること、

今年のクリスマスイブに、この辺りの地区にプレゼントを配る予定だったこと、

今日はそのリハーサルをしていたこと、

そして、その途中で僕らに見つかり、思わぬ攻撃を受けたこと

について、説明した。


「そうだったのですか‥、

そうとは知らず、メラゾーマなんか撃っちゃって、すみませんでした‥。」


話を聞いたコンギツネは、申し訳なさそうな顔をした。


「いやいや、済んだことはもういいよ。

‥しかし、君達は私がサンタだということを、ずいぶんすんなり信じてくれるんだな。

今の人達は、サンタクロースの存在なんて、ほとんど信じていないと思っていたが‥。」


サンタクロースは、僕らの方を見ながら、そう言った。


「いや、まあ‥。」


正直、ここ最近、妖怪やらターミネーターやらが立て続けに現れていたので、

もはや、サンタくらい全然疑わなくなっていた。


それからサンタは、

はあ‥、と溜め息をつきながら、


「‥しかし‥、

困ったのは、さっき窓から落ちた時に、

脚と腰を痛めてしまったことだ‥。

これじゃ、今年のクリスマスにプレゼントを配れそうにない‥。

どうしたものか‥。」


と、つぶやいた。


そうか‥。

このままだと、僕らのせいで、

この辺の子供達がプレゼント無しになってしまうのか‥。

どうしよう‥。

僕は、なんだか申し訳ない気持ちになった。


僕はコンギツネに、


「ねえ、君は

"ホイミ"とかは使えないの?」


と聞いた。

それでサンタクロースの怪我を治せれば

と思ったのだが、コンギツネは、


ホイミ

なんですか、それは?」


と言って、首をかしげるだけだった。


‥‥

なんでこいつは攻撃呪文しか使えないんだ‥。


僕らがそんなやりとりをしているのを見ていた

サンタクロースだったが、


「そうだ!」


と、何かを思いついたような顔で口を開いた。

そして、


「どうだろう。

今年は、君達が私の代わりに、

プレゼントを配ってくれないか?」


と提案してきたのだった。


‥‥

なんだって?


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つづく