#7 コンギツネの弟②

「この子は、
私の弟なんです。」

僕らは、居間のテーブルに向かい合って座り、話している。

「まったく、久しぶりに会ったと思ったら、
タチバナさんに対して暴力を振るおうとするとは‥、どういうつもりなのよ。」

コンギツネはフォックス君の方を見て言った。
フォックス君は下を向いている。

僕は、2人をしげしげと見比べながら、

「しかし、君に弟がいるとは思わなかったな。」

と言った。確かに、この2人、どことなく似ているようには見える。

コンギツネは、

「この子は、小さいときから、私がよく可愛がってあげてて、
いつも一緒に遊んであげたりしていたんです。
だから、昔からすごいお姉ちゃん子だったんですよね。」

と、昔を懐かしむような顔で言った。

しかし、フォックス君は、
きっ、とコンギツネの方をにらんで、

「ふざけんなよ!何が可愛がってた、だ!
いっつも僕をいじめてばっかりいたじゃないか!」

と言った。

「おやつを盗られたり、
川に落とされたり、
‥そうだ、あれは忘れもしない‥
寒い冬の日のこと!
ズボンとパンツを脱がされたまま、
外に放り出されて、
チンチン丸出しのまんま、街中を歩かされた事だってあったんだ!」

フォックス君は、昔の嫌な記憶を思い出したように、
怒りを爆発させていた。

‥なんかよく分かんないけど、
可哀想に‥。

「な、何よ!
そんなのちっちゃいときの事じゃない!
ほんの子供のいたずらでしょ!」

コンギツネは、悪びれることなく言い返した。

「何が"いたずら"だよ!
そういうのは、やられた方はいつまでも忘れないものなんだぞ!
あの一件のせいで、僕はずっと友達から馬鹿にされていたんだ!」

フォックス君は、怒りで涙目になってきている。

「‥だけど、1000年前、悪さばかりしていた姉ちゃんは、人間の手で封印された!
そのおかげで、僕にとっては平穏な日々が続いていたんだ!
なのに、タチバナさん、
あんたが封印を解いてしまったせいで、
また僕の悩みの種が復活してしまったんじゃないか!
そう、だから、僕はあんたが憎かったんだ!!」

フォックス君は、僕の方を見て言った。
それで、僕のことを殺そうとしたのか。
‥そんなこと言われてもなあ‥。

しかし、フォックス君はあらためてコンギツネの方をにらむと、

「いや、だがしかし、
確かにそれは逆恨みというものでした‥。
昔の復讐をするんなら、そう、
この姉に直接すべきだったんだ!」

f:id:inunigetorude:20211210232513p:plain


フォックス君はそう言うと、
バッ、と立ち上がり、コンギツネの方に向き、
臨戦態勢になった。

途端にピリッとした空気が流れた。

まさか、今から姉弟ゲンカを始めるつもりなのか‥。

対してコンギツネは、

「あら、なあに?
私とやろうっての?
あんた、昔から一度でも私に勝てたことがあったかしら?」

と、不敵な態度をとっている。

「黙れ!
僕を1000年前の僕と同じだと思うなよ!
あの時より、僕の魔力は数倍になっていると知れ!」

フォックス君はそう言うと、

はあああああっ!

とか言いながら、いきなり気を溜め始めた。

部屋の中の大気がビリビリ言っている。

僕は、家の中なんだから、頼むからやめてくれ、と思ったが、

フォックス君は構わずばっ、と手を挙げた。

すると、部屋の天井に何やら、
ゴロゴロと
"雨雲"が立ち込め始めた。

そして、

「長年の恨み、思い知るがいい!

食らえ!

"ライデイン"!!」

と叫ぶと、
雨雲から、稲妻が発せられたのだった。

稲妻はまっすぐコンギツネの方へ向かっていき

バリバリバリバリッ!

と、コンギツネに直撃した。

f:id:inunigetorude:20211210232551p:plain


‥‥
君らは人の家の中で、何をしてくれてんねん‥。


シュウウウ‥

雷系呪文の直撃を受けたコンギツネは、倒れ伏して動かない。
まさか、
死んでしまったのか‥。

「はあ、はあ、
ど、どうだ思い知ったか!
これが、1000年修行した僕の力だ!」

フォックス君は、勝ち誇ったような顔をした。

しかし、そうしたのも束の間だった。


コンギツネは突然むくっと起き上がった。


フォックス君はギョッとした。

コンギツネは、
パンパンと服に付いた汚れをはらいながら、

「へえー、
確かに、少しは強くなったみたいねえ。」

と余裕の笑みを浮かべ、そう言った。
衣服はところどころ焦げてはいるが、身体そのものは、ほぼ無傷のようだった。

f:id:inunigetorude:20211210232634p:plain


「‥な‥
ば‥ば‥馬鹿な‥‥。
あれを食らって‥」

フォックス君は、驚愕の表情をしている。

しかし、コンギツネは、それを嘲笑うかのように、

「確かにあんた、ずいぶん力を上げたようだわね。
でも、すぐに思い知ることになるわ!
上には上がいるということをねっ!!」

と言うと、
バッと両手を上に挙げ、気を集中させた。

ゴゴゴゴゴゴッ!

すると、さっきとは比にならないくらいの勢いで空気が震え始めた。

「‥な‥‥
こ、こんなばかな‥‥。」

フォックス君は、予想以上の力の差を感じ取ったのか、完全に戦意を喪失している。

ゴロゴロゴロゴロッ

そして、さっきの数倍の雨雲が
立ち込めた。

「私に楯突いたことを後悔しながら死になさい!

食らえ!"ギガデイン"!!」

コンギツネがそう叫ぶと、これまたさっきの数倍の稲妻が発生し、

バリバリバリッ、
バリバリバリバリバリッッッ!!!

とフォックス君を襲ったのだった。

「ぎゃああああああああっ!!」

フォックス君の断末魔がこだました。

こうして、常軌を逸した姉弟ゲンカは、
姉の貫禄勝ちに終わったのだった。





かろうじて生きていたフォックス君は、
床に倒れたまま、

「うう‥ちくしょう‥
僕は結局姉ちゃんには勝てないのか‥。」

と、くやしそうにつぶやいた。
目には、大粒の涙を浮かべている。

コンギツネは、

「そうね。
まあ、でもあんたも、中々いい線いってたわよ。」

と偉そうに言った。
さらに、

「とにかく、
私は今、この家にお世話になっているのです。
だから、この人に危害を加えることはゆるしませんよ!」

と、僕を指差して、強い口調で付け加えた。

「‥うう‥、はい‥
分かりました。」

フォックス君は、弱々しくそう答えたのだった。


‥僕は、この一件のせいで、
また騒音の苦情を受けることになるんだろうなと、
憂鬱な気分になっていた‥。



つづく