#5 コンギツネとターミネーター② JUDGMENT DAY

翌日、僕はターミネーターに頼まれ、
レンタカーを借りて、
近隣の県にある製鉄工場にやってきていた。

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めんどくさいことに巻き込まれたなあ、と思いながらも、
仕事が休みだったので渋々了承したのだ。
コンギツネも旅行気分でついてきている。

ターミネーターには、ユニクロで適当に買ったラージサイズの服を着せていた。


製鉄所の敷地内に忍びこんだ僕らは、
さらに職員達の目を盗み、
鉄を溶かしている工場の中に入っていった。

目の前の溶鉱炉の中では、真っ赤に溶けた鉄が、
グツグツと音を立てて煮えたぎっていた。
とにかくすごく暑い。


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ターミネーターは、溶鉱炉の中を覗き込んだあと、
僕らの方に向き直って言った。

「とにかく、間違えて違う時代に来てしまったことは、もう仕方がない。

というか、もはやこの時代では何もやる事が無い以上、
無駄にこの時代にとどまることは出来ない。
未来から来た私が、本来存在しないはずの時代に居続ければ、
いたずらに歴史を変えてしまう恐れがある。」

そして、溶鉱炉の上にぶら下がっている
"クレーン"に目をやった。
近くには、そのクレーンの昇降スイッチがあった。
ターミネーターは、その昇降スイッチを手に取ると、

「私は、消滅しなければならない。

だが、私は自分で自らを破壊することは出来ないんだ。
だから、あんたがこれで、
私を溶鉱炉に沈めてくれ。」

と言って、コンギツネにスイッチを手渡してきた。

「‥‥‥‥
え‥?

そんなの‥‥。」

突然言われて、
コンギツネは戸惑っている。

「いや、そんな‥別に死ななくたって‥

なんとか、なりますよ。
この時代で生きていけばいいんじゃないですか!?」

強い口調でコンギツネは言った。

しかし、ターミネーターは首を横に振りながら、

「いや、未来のテクノロジーである私が、この時代に存在することは、危険が大きすぎる。

下手をすれば、スカイネットの開発を早めてしまうことにもなりかねないんだ。」

と応えた。

そして、溶鉱炉の方へ向かおうとした。

「そ、そんな‥
だからって‥‥。」

コンギツネは、目に薄っすら涙を浮かべていた。

昨日会ったばかりのターミネーターだが、どうやらちょっと感情移入をしてしまっているらしい。

こういうところは、いいやつなんだな
と僕は思った。

ターミネーターは、振り返り、
寂しげな表情で、

「人がなぜ涙を流すか分かった気がする。

私は、涙を流せないが‥。」

と言った。


‥‥‥

なんか、さっきから一見カッコいいことを言っているような感じがするが、
よく考えたら、おまえ特に何もしてないからな、

と言おうと思ったが、
それはちょっと可哀想かなと思いやめた。


ターミネーターは、クレーンにつかまり
溶鉱炉の上にぶら下がった。

コンギツネは躊躇していたが、
やがて、何か意を決したような表情で
スイッチのボタンを押した。

キュルキュルキュルキュル

クレーンが下がり始めた。
そして、ターミネーターは足先から溶鉱炉の中へと
沈んでいった。

コンギツネは、悲しそうな顔をしている。

しかし、
最後、
沈み切る前に、

ターミネーターは右手の親指を立て、
サムズアップをしてみせたのだった‥。

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‥その一部始終を見届けた後、
僕らは家に帰ることにした。

製鉄所を後にし、車に乗り込む。

レンタカーのヘッドライトが、夜の高速道路の行く先を照らしていた。


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コンギツネは、初めての車の旅で疲れたのか、
後ろの座席で寝息を立てていた。


僕は、ただ、

何一つ解決されていない
サラ・コナーの身の事を案じていた。


つづく